フィリピンの服飾

フィリピンの服飾：多様な文化と歴史の結晶

フィリピンは、大小7,000以上の島々からなる国であり、年間を通して高温多湿な熱帯モンスーン気候です。約80もの民族が暮らすこの地では、スペインやアメリカの支配下にあった歴史的背景から、服装の文化もまた多岐にわたります。大きく分けると、先住民族に伝わる伝統衣装と、植民地時代に欧米化された衣装の2つに分類できます。

伝統的な民族衣装

フィリピンの伝統衣装は、各先住民族が受け継ぐ「伝統染織」で作られています。これらの染織は、民族の生活文化と深く結びつき、特に儀式の際には不可欠な要素です。伝統的な織物は、「バック・ストラップ織機」と呼ばれるシンプルな織機を使い、手作業で丁寧に作られます。各民族によって素材、柄、色、技法が異なり、古くから女性たちの手によって受け継がれてきました。

ルソン島北部山岳民族の衣装

ルソン島北部の山岳地帯には、ボントック族、イフガオ族、カンカナイ族など、多くの少数民族が暮らしています。かつて女性たちは上半身裸で、入れ墨や宝石、ビーズのネックレスなどを身に着け、寒い時には絣織や縞織のジャケットを羽織っていました。カリンガ族は、縞織の服にビーズや貝殻の飾りを施していました。下半身は、各部族ごとの特徴的な染織布で作られた巻きスカートを着用し、その色や柄で部族を区別することができました。

イフガオ族の女性は、濃紺、赤、白のストライプ織や、草木で染めた絣織のスカートを着用し、男性は赤と黒のストライプの褌を身につけ、上半身は裸で装飾品を付けていました。葬儀の際には、濃紺地に白の絣で家やトカゲ（守り神）などを染め抜いた布や、赤と濃紺のストライプと柄入りのブランケットを用いていました。カリンガ族の女性のスカートは、赤、濃紺、黄色のストライプ織に、赤、緑、黄色の糸で刺繍が施され、正装の際には真珠貝のビーズで飾られました。

ミンドロ島山地民族の衣装

ミンドロ島南部の山岳地帯に住むハヌノオ・マンヤン族は、インドの影響を受けた魔除けの十字柄が刺繍された紺または白地のブラウスに、珍しい藍染めの縞柄のスカートを着用します。

ミンダナオ島の衣装

ミンダナオ島には、山地に住む精霊宗教を信仰する民族と、イスラム教を信仰する民族がいます。

精霊宗教信仰民族

ティボリ族、マンダヤ族、ビラアン族、バゴボ族など、約15の民族は、伝統的な土着宗教を信仰し、互いに似た文化を持っています。彼らの民族衣装は、無病息災の祈りが込められ、技術的に優れたものが多く、特に女性のブラウスには、真珠貝のスパンコールやクロスステッチの刺繍が施されています。

イスラム系民族

マギンダナオ族やマラナオ族の女性は、絹や木綿で作られたマロンという筒状の衣服を着用し、男性もズボンの上から着用します。タウスグ族は、綿で織られたピスという正方形の織物でできた衣装を着用します。ピスは主に男性がサッシュやスカーフとして使用し、その制作には熟練した技術と時間を要します。ヤカン族の女性は、ズボンの上から短い巻きスカートを着用し、金属のボタンを付けた黒いブラウスを着ています。

欧米化された衣装

女性の服飾

スペイン統治時代の衣装

スペイン統治初期には大きな変化はなかったものの、スペインやメキシコからの影響を受け、ファッションに変化が現れました。それまでの一枚布の巻きスカートは、ルネサンス時代に流行したボリュームのあるサヤと呼ばれるスカートに変わりました。パイナップルの繊維に刺繍を施したブラウス「カミサ」が新しいスタイルとなり、スカートの上からタピスを巻くことが流行しました。19世紀には、カミサに大きなネッカチーフ「パニュエロ」を羽織り、ブローチで留めるスタイルが主流となりました。1870年代には、マリア・クララの装いが大流行し、カミサやパニュエロに繊細な刺繍が施され、スカートは重いサテン生地を使用し、長い裾のコーラが流行しました。19世紀末には、スカートは細くすっきりとしたデザインになり、タピスが復活しました。

アメリカ統治時代の衣装

アメリカ統治下では、若い女性の服装に大きな変化が見られました。ブラウスは短く、スカートも活動的なデザインになり、全体的に細身になりました。その後、ブラウスとスカートに同じ素材・色の布を使用したテルノが誕生しました。1920年代には、蝶の羽根を模したバタフライスリーブが生まれ、テルノには欠かせないものとなりました。1930年代には、ファスナー付きのワンピースが登場しました。

日本統治時代と戦後の衣装

日本統治下ではテルノが見られなくなりましたが、戦後には復活しました。1940年代末にはテルノのデザインが多様化し、バタフライスリーブが片袖のものや取り外し可能なものが登場しました。1960年代初期には、短いブラウスをスカートの上にかぶせるキモナが流行し、1960年代後期にはパニュエロが廃れました。1970年代以降のバタフライスリーブは小さくなり、「イメルダ・スリーブ」とも呼ばれました。イメルダ・マルコス大統領夫人はテルノを国の象徴として推進しました。

男性の服飾

男性の服飾も、スペイン、中国、イスラムの影響を受けて変化しました。以前は、民族ごとに様々な衣装を着用し、バハグという褌やサルワルというズボンを履いていました。天然繊維に刺繍を施したバロン・タガログは、1972年に男性のナショナルコスチュームに制定されました。

参考文献

丹野郁監修『世界の民族衣装の事典』東京堂出版、2006年、66-75頁。ISBN 978-4-490-10668-8

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