フェデリコ2世・ゴンザーガの肖像

ティツィアーノの肖像画「フェデリコ2世・ゴンザーガ」

イタリア、ルネサンス期の巨匠ティツィアーノ・ヴェチェッリオによって1529年に描かれた油彩画『フェデリコ2世・ゴンザーガの肖像』は、初代マントヴァ公爵フェデリコ2世・ゴンザーガの姿を捉えた作品です。この肖像画は、フェデリコ2世の結婚を支援する目的で制作されたと推測され、現在ではマドリードのプラド美術館に所蔵されています。

フェデリコ2世・ゴンザーガについて

フェデリコ2世は、マントヴァ侯爵フランチェスコ2世・ゴンザーガと、当代随一の文化人であったイザベラ・デステの間に生まれました。幼少期から人文主義的な教育を受け、激動の時代の中で教皇やフランス国王の人質として過ごした経験を持ちます。その後、マントヴァ侯爵を継承し、教皇軍の最高司令官にも任命されました。政治的な駆け引きや結婚戦略に長けた一方で、芸術の庇護者としても知られ、ジュリオ・ロマーノやコレッジョといった著名な芸術家を支援しました。ティツィアーノとの関係は1523年以降に始まり、彼の死去まで30枚以上の絵画が制作されました。

作品の特徴

この肖像画では、黒い髪と髭をたくわえたフェデリコ2世が、金の刺繍が施されたロイヤルブルーのベルベットの上着をまとい、優雅な姿で描かれています。彼は、当時の男性が着用したダブレットと呼ばれる上衣と赤いタイツを身に着け、首には金とラピスラズリのロザリオをかけ、指には指輪をはめています。左手は腰に帯びた剣に添えられ、画面左には白いマルタ犬が描かれています。この小型犬は、フェデリコ2世に親愛の情を示すように前足を上げ、公爵自身も犬の背中を撫でています。豪奢な衣装と愛玩犬は、彼の貴族としての威厳と享楽的な性格を示唆しています。ティツィアーノは、わずかに傾けた頭部と官能的な小さな口によって、彼の軽薄さをも表現しています。

類似作品との比較

この肖像画は、ティツィアーノが以前に描いたフェデリコ2世の叔父、フェラーラ公爵アルフォンソ1世・デステの肖像画と多くの点で類似しています。どちらの作品も七分丈で描かれ、衣服の質感や細部の描写にこだわりが見られます。ティツィアーノは、初期の宮廷肖像画で、肖像画にモデルの社会的地位や個人的な特性を暗示させる要素を取り入れることで、その人物像をより深く掘り下げました。アルフォンソ1世の肖像画では、彼が大砲の専門家であったことから大砲が描かれ、フェデリコ2世の肖像画では、彼が愛した小型犬が描かれています。

また、アルフォンソ1世の愛人ラウラ・ディアンティの肖像画との類似性も指摘されています。特にウルトラマリンの使用や、七分丈の形式、愛情の対象として描かれる小型犬（ラウラの場合は黒人の子供の使用人）の配置に類似点が見られます。男性の肖像画に通常描かれる大型犬ではなく、小型犬を描いたことは、当時のフェデリコ2世の結婚願望と、自身の放蕩を覆い隠す必要性を示唆していると考えられています。ティツィアーノは、小型犬のポーズを通して、主従間の愛情ある関係性を表現しており、これはドメニコ・ギルランダイオの肖像画『老人と孫』における表現手法と似ています。

来歴

この作品に関する最初の記録は、フェデリコ2世が1529年4月16日に叔父アルフォンソ1世に宛てた手紙にあります。この中で、彼はティツィアーノが自身の肖像画の制作を開始したことを伝えています。17世紀には、レガネス侯爵家が所有していましたが、1642年にスペイン国王フェリペ4世が購入し、王室コレクションとして所蔵されました。その後、王宮での展示を経て、1821年にプラド美術館に収蔵され、現在に至ります。かつてはアルフォンソ1世の肖像画と考えられていましたが、1904年に美術史家ゲオルク・グロナウによって、モデルがフェデリコ2世であることが特定されました。

この肖像画は、ティツィアーノの卓越した技術と、ルネサンス期の貴族社会の複雑な側面を捉えた、貴重な文化遺産です。

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