ラウラ・ディアンティの肖像

『ラウラ・ディアンティの肖像』は、イタリア・ルネサンス期の巨匠ティツィアーノ・ヴェチェッリオが、1520年から1525年頃に制作した油彩の肖像画です。この作品には、フェラーラ公爵アルフォンソ1世・デステの愛人であり、後に結婚したラウラ・ディアンティと、彼女に付き従うアフリカ人の小姓が描かれています。

作品について

ラウラは鮮やかな青色のドレスを身にまとい、左手を小姓の右肩に置いています。小姓はラウラを見上げており、二人の視線が交差する構図となっています。この肖像画は、アルフォンソ1世の肖像画と対をなすものとして制作されたと考えられています。また、公爵の死後、ラウラとの結婚の正当性を主張するために使用されたという点で、歴史的な意義も持ち合わせています。ラウラの肖像画は、多くの所有者を経て、修復によってティツィアーノの署名が発見されるまで、複製の1つとみなされていました。

ラウラ・ディアンティという女性

ラウラ・ディアンティは、生前はラウラ・エウストキアとして知られていました。美術史家によると、アルフォンソ1世は交際を始めたばかりの彼女に、ラウラとエウストキアの両方の名前を与えた可能性があるとされています。当時の高級娼婦は、より詩的な意味を持たせるために名前を変えることが一般的でした。ラウラという名前は、ペトラルカが詩の中で愛を捧げた女性を指している可能性があります。一方のエウストキアは、ローマの聖女であり、聖ヒエロニムスの信奉者である聖エウストキウムを指しているとされています。

ラウラは、当初は下層階級の出身と見なされていましたが、周囲の人々からの尊敬を集め、フェラーラ宮廷の一員となりました。1519年に公爵の2番目の夫人ルクレツィア・ボルジアが亡くなった後、公爵と結婚したと考えられています。しかし、この肖像画が結婚前に描かれたのか、結婚後に描かれたのかについては、美術史家の間で議論があります。

ラウラは、尊敬はされていたものの、公爵の他の夫人たちとは異なる扱いを受けていました。彼女は、一族の宮殿とは別の邸宅に住み、1573年に亡くなった際には、エステ家の他のメンバーとは別に埋葬されました。

作品の詳細

ラウラは、宝石と織物で作られた華やかな頭飾りを被り、真珠のイヤリングを身に着けています。ドレスは鮮やかな青色のサテン地で、金色の装飾と白い重ね袖が施されています。ラウラの左手は、アフリカ出身の黒人の小姓の右肩に置かれ、小姓は彼女を見上げています。背景は暗く、人物に柔らかな光が当たっています。

この肖像画は、一般的に『アルフォンソ1世・デステの肖像』と対をなす作品と考えられています。二つの肖像画を並べて展示すると、人物像が互いに内側を向き、同じバランス感覚を共有しているのがわかります。しかし、二つの肖像画のサイズが異なることから、この説に異議を唱える研究者もいます。

モデルの特定と真筆性

以前は、この肖像画の女性はアルフォンソ1世の2番目の夫人ルクレツィア・ボルジアであると考えられていましたが、後に美術史家によってラウラ・ディアンティであると判明しました。この肖像画には、合計6点の複製が存在すると考えられており、クロイツリンゲンの作品もその一つでした。しかし、修復作業中にティツィアーノの署名が発見され、真筆であることが証明されました。

図像学

婚姻承認論争

この肖像画は、ラウラの息子アルフォンソを通じて玄孫にあたるフランチェスコ1世・デステによって、1640年代に法廷での証拠として使用されました。当時、アルフォンソ1世がルクレツィア・ボルジアの死後、ラウラを妻として迎えたという文書記録が存在しませんでした。そのため、この肖像画は、彼らの結婚の正当性を主張するために利用されました。しかし、ラウラの服装や、肖像画がエステ家でどのように扱われていたかなど、さまざまな問題が議論の対象となりました。

黒人の小姓

肖像画に描かれた小姓については、いくつかの解釈があります。一つは、小姓を従えているラウラの姿は、彼女の高い社会的地位を示すというものです。また、小姓は、ラウラが愛人であることを示すという解釈もあります。肖像画に子供を登場させるのは、男性の欲望的な視線を防ぐためだったという考え方もあります。しかし、この肖像画では、小姓の視線がラウラに向けられており、鑑賞者も同じようにラウラを見るよう促していると解釈することもできます。

記章

ラウラが身に着けている記章は、聖ヒエロニムスを象徴する赤色であるという解釈がありますが、聖ヒエロニムスの代表的なものではないという主張もあります。この記章は、ラウラの別の名前であるエウストキアを暗示している可能性もあります。

来歴

この肖像画に関する記録は、ジョルジョ・ヴァザーリやカルロ・リドルフィによって言及されています。いくつかの複製とヴァリアントが存在しており、真筆版とみなされているのは、1599年にチェーザレ・デステから神聖ローマ皇帝ルドルフ2世に贈られたバージョンと考えられています。その後、この作品はスウェーデン女王クリスティーナのコレクションとなり、最終的にはハインツ・キスターズのコレクションに加わりました。

ギャラリー

後代の複製
後代の複製
後代の複製

脚注

(脚注の内容を記述)

参考文献

Francesco Valcanover, L'opera completa di Tiziano, Rizzoli, Milano 1969.
Bestor, Jane (2003). “Titian's Portrait of Laura Eustochia: The Decorum of Female Beauty and the Motif of the Black Page”. Renaissance Studies 17 (4): 628–673.
Cook, Herbert (1905). “The True Portrait of Laura de; Dianti by Titian”. The Burlington Magazine for Connoisseurs 7: 449–451, 454–455.
Rogers, Mary (March 1988). “The decorum of women's beauty: Trissino, Firenzuola, Luigini and the representation of women in sixteenth-century painting”. Renaissance Studies 2: 51.
Segal, Muriel (1972). Painted Ladies: Models of the Great Artists. New York: New York, Stein and Day.

ラウラ・ディアンティの肖像