フェリクス4世 (ローマ教皇)

フェリクス4世（生年不詳 - 530年9月22日）は、6世紀前半にローマ教皇を務めた人物であり、カトリック教会において聖人として崇敬されています。在位期間は526年から530年までの約5年間でした。

選任の背景

フェリクス4世が教皇に選出された背景には、当時の政治情勢と宗教的な対立が複雑に絡み合っていました。西ローマ帝国が滅亡した後、イタリア半島ではゲルマン民族のオドアケルによる支配が一時的に行われましたが、その後、東ゴート族のテオドリックが実権を握りました。テオドリックはアリウス派を信仰していましたが、東ローマ帝国のユスティヌス1世がアリウス派の弾圧を始めると、テオドリックはローマ教皇ヨハネス1世を東ローマ帝国に派遣し、和睦を図ろうとしました。しかし、ヨハネス1世は高齢のため和睦交渉をまとめられず、ローマに帰還後、テオドリックの怒りを買い、獄死してしまいます。

ヨハネス1世の死後、教皇の選出が急務となりました。そこで白羽の矢が立ったのが、ヨハネス1世の使節団の一員であった助祭、すなわちフェリクス4世でした。彼はテオドリックの意向をよく理解していたため、教皇に選出されたと考えられています。前任のヨハネス1世とは異なり、フェリクス4世はテオドリックの支配下で比較的平穏な5年間を過ごしました。

異教建築物の転用

フェリクス4世は、ローマのフォロ・ロマーノに存在した異教の建築物をキリスト教の施設へと転用した最初の教皇として知られています。フォロ・ロマーノには、かつて神々や歴代皇帝を祀るための建築物が数多く存在していましたが、中世になるとこれらの建物はキリスト教の教会や礼拝堂に転用されていきました。フェリクス4世は、この転換の先駆けとなった人物なのです。

彼が転用した建物の中で最も有名なのが、聖都神殿の隣に位置していたロムルスを祀る廟です。この廟は、コスマスとダミアノスという二人の殉教者を祀る教会堂「サンティ・コスマ・エ・ダミアノ聖堂」へと姿を変えました。現在でも、この教会にはフェリクス4世の姿を描いたモザイク画が残されており、彼の功績を今に伝えています。この転用は、異教の歴史をキリスト教に取り込み、新たな信仰の場を創出するという、象徴的な出来事でした。



フェリクス4世の時代は、政治的にも宗教的にも大きな変動期でした。彼の在位は短期間でしたが、その後のローマの歴史に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

参考文献

* P.G.マックスウェル・スチュアート著、高橋正男監修『ローマ教皇歴代誌』創元社、1999年12月。ISBN 4-422-21513-2

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