オドアケル

オドアケル：西ローマ帝国終焉の立役者

オドアケル（Odoacer, 433年 - 493年3月15日）は、5世紀に活躍したローマ帝国の軍人であり、西ローマ皇帝ロムルス・アウグストゥルスを廃位し、イタリアの領主として権力を掌握しました。彼の出自は諸説ありますが、ゲルマン人であったかどうかさえ定かではありません。

生涯

オドアケルの出自については、ヘルール族、スキリア族、ゴート族、テューリンゲン族など様々な説が存在します。父はエデコとされ、兄弟に東ローマ帝国の軍司令官オノウルフスがいました。父エデコが469年に戦死すると、オドアケルはローマへ逃亡し、470年頃にローマ軍の将軍となります。472年には、ゲルマン人の将軍リキメルの下で西ローマ皇帝アンテミウスの討伐に参加しました。彼は特定の部族を率いるのではなく、ローマ軍団を率いる将軍でした。

476年、オドアケルは西ローマ皇帝ロムルス・アウグストゥルスを廃位し、元老院を通じて「もはや西方担当の皇帝は必要ない」とする勅書を、帝冠と紫衣とともに東ローマ帝国の皇帝ゼノンへ送りました。ゼノンはロムルス・アウグストゥルスを正当な西ローマ皇帝とは認識していなかったため、この廃位を正当な行為と見なしました。ゼノンはオドアケルにパトリキの地位とイタリア本土を統治する権限を与えました。同時に、ダルマティアで西ローマ皇帝を名乗っていたユリウス・ネポスを西ローマ皇帝として受け入れるよう提案しましたが、元老院の反対により、オドアケルはネポスの名前を刻印した金貨を発行するに留まりました。

480年にユリウス・ネポスが暗殺されると、東ローマ皇帝ゼノンが唯一の皇帝となりました。オドアケルは自ら皇帝になることも、傀儡皇帝を立てることもせず、ローマ帝国の政府機構を維持し、古代ローマ式の統治を継続しました。彼はローマ法を厳格に実行し、元老院と執政官の権威復興に努め、西ローマ帝国の人々から信頼を得ました。元老院と執政官は鋳造権を回復し、良質な銅貨幣が発行されました。アリウス派であったオドアケルは、カトリック教会とも良好な関係を維持しました。

対外的には、ヴァンダル王国の王ガイセリックと交渉してシチリア島の一部を返還させ、イタリアへの攻撃を停止させました。487年にはルギー族の王ファワを降伏させ、連れ去られたローマ市民を取り戻しました。彼の統治下でイタリアは安全になり、ローマの人口が増加し、西ローマ帝国は大いに復興しました。

ゼノンとの対立と最期

488年、ゼノンはオドアケルが反乱を起こしたイサウリア人の将軍イルスを支持しているとして、ゴート人の将軍テオドリックにオドアケル討伐を命じました。これは濡れ衣であったとも言われています。489年、テオドリックはイタリアに侵入し、オドアケルはラヴェンナに追い込まれました。493年に降伏した後、オドアケルは宴会の席で配下の兵とともに暗殺され、兄弟オノウルフスも処刑されました。テオドリックは東ローマ皇帝アナスタシウス1世から帝衣と帝冠を授けられ、西ローマ帝国を統治する権限を与えられました。

評価

今日では、オドアケルがイタリアの領主に任命されたことをもって西ローマ帝国の「滅亡」と表現することがありますが、J.B.ベリーらの研究者はこの見解に否定的です。オドアケルによるイタリア統治は、皇帝ゼノンによってイタリアに適用された、各地の領主任命の延長に過ぎないと考えるべきでしょう。西ローマ帝国の政府機構は6世紀中頃まで存続し、民政行政も引き続き行われていました。少なくとも法律・制度・行政機構の面においては、この時期の西ローマ帝国にいかなる断絶も見出すことはできません。

逸話

オドアケルがローマで身を立てるまでに、二つの逸話が知られています。一つは、ガリアでフランク人の将軍キルデリク1世と会い、イタリア本土の防衛について語り合ったという話です。もう一つは、放浪中にノリクムで聖人セヴェリヌスから「将来あなたはイタリアで王になるだろう」と予言されたためにイタリアへ向かったという話です。

オドアケルは、西ローマ帝国の終焉という激動の時代に、独自の統治を行い、その後の歴史に大きな影響を与えた人物として記憶されています。

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