フェリクス5世 (対立教皇)

アメデーオ8世とその時代

アメデーオ8世は、1383年、サヴォイア伯アメデーオ7世とベリー公ジャン1世の娘ボンヌとの間に生まれました。8歳で父の後を継ぎサヴォイア伯となり、母ボンヌの摂政の下、若くして家督を相続することとなりました。

彼の青年期は、相次ぐ親族の死によって影を落とされました。多くの兄弟やサヴォイア家の男子縁者が亡くなり、アメデーオ8世はサヴォイア家唯一の男子相続人となったのです。この状況下で親政を開始したアメデーオ8世は、優れた政治手腕を発揮し、伯領内を統一、集権化を進めました。分割されていた領地を一つにまとめあげ、強大なサヴォイア公国を築き上げたのです。

外交面でも才能を発揮し、百年戦争の渦中にある西欧においても、フランス王、イングランド王、神聖ローマ皇帝といった強大な勢力の間で巧みにバランスを取りました。その功績から神聖ローマ皇帝ジギスムントより帝国公爵の地位を授かり、サヴォイア伯は公爵に昇格することとなります。この手腕から、彼は「温和公（il Pacifico）」の異名で呼ばれました。

バーゼル公会議と対立教皇

1431年に始まったバーゼル公会議は、教皇エウゲニウス4世と公会議派との対立を深めていきました。1437年、教皇がフィレンツェ（フェラーラ）へ公会議を移転すると、バーゼルに残留した公会議派は、教皇権を超える公会議の権威を主張。エウゲニウス4世の退位を宣言し、アメデーオ8世を新たな教皇として擁立したのです。

1439年、アメデーオ8世は教皇フェリクス5世として戴冠しました。サヴォイア公でありながら教皇となった彼は、サヴォイア公爵の紋章と教皇冠をあしらった独自の紋章を作成。教皇の服装と杖を身に付け、教皇として活動しました。翌1440年にはサヴォイア公位を息子ルドヴィーコに譲っています。

その後も、フェリクス5世とエウゲニウス4世の対立は長期に渡って続きました。フィレンツェ公会議は、カトリックと正教会の合同を目指し、様々な改革を実行しました。しかし、バーゼル公会議は過激な思想と財政難から信用を失墜、ローザンヌに移転するなど苦境に陥りました。

やがてバーゼル公会議支持派の諸侯は離反し始め、フィレンツェ公会議へと支持を移しました。1449年、教皇ニコラウス5世がバーゼル公会議の閉会を宣言すると、フェリクス5世も教皇位請求権を放棄、世俗の君主として余生を送ることになります。

後世における評価

教会に反旗を翻した対立教皇であったことから、後の教皇たちからは批判の対象となりました。しかし、サヴォイア家にとっては、サヴォイア公国を強大化させ、イタリア統一への礎を築いた重要な人物として歴史に名を残しています。その子孫であるヴィットーリオ・エマヌエーレ2世によって、教皇領は廃止され、教皇の世俗的な権力は終焉を迎えることになります。

家族

アメデーオ8世は、ブルゴーニュ公フィリップ2世の娘マリーと結婚し、9人の子をもうけました。その中には、サヴォイア公ルドヴィーコや、ミラノ公フィリッポ・マリーア・ヴィスコンティと結婚したマリーアなどが含まれます。

アメデーオ8世の生涯は、サヴォイア家の発展に大きく貢献しただけでなく、教会史においても重要な転換期を象徴する出来事でした。彼の政治的、外交的な手腕、そして対立教皇としての経験は、後のヨーロッパの歴史に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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