フィレンツェ公会議

フィレンツェ 公会議とは

フィレンツェ公会議は、1430年代にイタリアで開催されたキリスト教の公会議です。当初はフェラーラで始まり（1438年）、その後フィレンツェ（1439年）に移されました。この会議は、東西教会の分裂を解消し、再統合を目指すという重要な目的を持っていました。しかし、その過程は複雑で、様々な要因が絡み合いました。

会議の背景には、バーゼル公会議の分裂があります。バーゼル公会議（1431年開始）は、教皇派と公会議派に分かれ、教皇派はイタリアに移り、公会議派はバーゼルに残りました。イタリアでは、主に東方正教会とローマ・カトリック教会の再合同について議論が行われました。

この会議は、バーゼルでの会期を含めて「バーゼル公会議」あるいは「バーゼル・フェラーラ・フィレンツェ公会議」と呼ばれることもあります。また、後半のフェラーラ、フィレンツェ、ローマでの会期をまとめて「フェラーラ・フィレンツェ公会議」と呼ぶこともあります。

カトリック教会では、バーゼルでの会期を含めて第17回公会議（バーゼル公会議 1431-1445年）としています。東方教会ではこれを第8回公会議と数える場合もありますが、多くの教会（現在のコンスタンティノープル正教会、ロシア正教会など）は公会議として認めていません。

会議の経緯

バーゼルからの移転

1431年にスイスのバーゼルで公会議が始まりました。その詳細な経緯はバーゼル公会議を参照してください。オスマン帝国の圧力を受けていたビザンツ帝国は、西ヨーロッパ諸国からの支援を求めていました。皇帝ヨハネス8世パレオロゴスは、東西教会の分裂を収拾することで、西側からの支援を得ようと考え、東西融和を提案しました。西側教会もこれを歓迎する機運が高まりましたが、会議の開催場所を巡って、バーゼルの参加者と教皇側の間で意見が対立しました。

1437年、教皇側はギリシア側の便宜を図ってフェラーラへの公会議の移転を発表しました。これにより、バーゼルの参加者は分裂し、ニコラウス・クザーヌスなど教皇に従ってフェラーラに移動する者と、バーゼルに残る者に分かれました。フリードリヒ3世は教皇エウゲニウス4世と交渉し、バーゼルの代表者を会議から途中で欠席させました。

バーゼルに残った急進的な公会議主義者たちは、教皇権を超える公会議の権威を主張し、教皇の廃位を一方的に宣言しました。1439年、独自にサヴォイア公爵アマデウスを教皇に立て（フェリクス5世）、最後の対立教皇としました。この行動は、公会議主義の歴史における大きな失敗となりました。

フェラーラおよびフィレンツェでの会期

フェラーラ公会議は1438年 1月8日に召集され、10日から開催されました。ビザンツ帝国の皇帝ヨハネス8世パレオロゴスやコンスタンディヌーポリ総主教ヨセフスなどの高位聖職者たちは、1438年4月上旬にフェラーラに到着しました。東西教会による合同会議は1438年 4月9日に始まりました。

教皇エウゲニウス4世のもと、ビザンツ皇帝、コンスタンディヌーポリ総主教、エフェソス、ニカイア、キエフ、アレクサンドリア、アンティオキア、エルサレムといった東方教会の代表と、西方教会の司教たちが一堂に会して討議を行いました。しかし、フェラーラでは財政的な困難や疫病の流行に見舞われたため、教皇庁の金融を担当していたメディチ家（コジモ・デ・メディチ）の提案により、1439年に公会議はフィレンツェに移されました。

フィレンツェでの討議はサンタ・マリア・ノヴェッレ聖堂で行われました。東西教会の意見の不一致点である「フィリオクェ問題」をめぐって議論は難航しましたが、最終的に妥協案が作成され、1439年には合同教令「レテントゥル・チェリ」が採択されました。これにより東西教会の再統一が大きく進むかに見えましたが、ビザンツ帝国では、東方全教会の総意を得たものではなく政治的な思惑が強かったため、聖職者や国民から大きな反発の声が上がりました。モスクワも合同を受け入れず、合同派のキエフ府主教イシドールは追放されました。

さらに、1453年にオスマン帝国軍がコンスタンティノポリスを陥落させたことで、東西教会の合同に向けた協議は行われなくなりました。しかし、この公会議によってアルメニア教会の一部がローマ・カトリック教会と合同し、アルメニア典礼カトリック教会が成立するという成果も残りました。

ローマでの会期と公会議の最後

1443年、公会議はローマに移転し、シリア正教会やマロン派との合同が模索されました。一方、バーゼルに残った急進的な公会議主義者たちは過激さから信用を失い、財政難のためローザンヌに移動しました。かつて公会議主義者たちを支持していた諸侯も教皇側を支持するようになり、分裂公会議の参加者は解散に追い込まれました。

最終的に公会議は1449年に教皇ニコラウス5世によって閉会が宣言され、フェリクス5世も退位しました。

ルネサンスへの刺激

この公会議は、イタリアにギリシアの知識人亡命者をもたらし、ギリシア語文献を伝えることで、ルネサンス思想に大きな影響を与えました。フィレンツェの人文主義者は当時、プラトン哲学などの古代ギリシア文献に注目していましたが、ギリシア語を読むことができませんでした。一方、ビザンツ帝国ではギリシア語が公用語であり、「パレオロゴス朝ルネサンス」と呼ばれる古代ギリシア語研究が盛んな時期でした。

公会議には多くのビザンツ帝国の知識人が参加し、フィレンツェは彼らから多くの知識を学びました。特に、ヨハンネス・ベッサリオンやゲオルギオス・ゲミストス・プレトンらが知られています。

ゲオルギオス・ゲミストス・プレトン (1360年? - 1452年)：フィレンツェ公会議で行ったプラトン講義は、フィレンツェのプラトン熱を高め、コジモ・デ・メディチがプラトン・アカデミーを創設するきっかけとなりました。プレトンは、プラトンにちなんで改名した名前です。彼は帰国後も教育・研究活動を行い、ミストラで亡くなりましたが、遺骨はイタリアに運ばれて再び埋葬されました。
ヨハンネス・ベッサリオン (1403年 - 1472年)：公会議後もフィレンツェに残り、古典文献を収集しました。後にカトリックに改宗し枢機卿となり、コンスタンティノープル総大司教に任命されましたが、これは名目的なものでした。