フェリーチェ・デッラ・ローヴェレ

フェリーチェ・デッラ・ローヴェレ：教皇の娘、ルネサンスの権力者

フェリーチェ・デッラ・ローヴェレ（Felice della Rovere、1483年頃 - 1536年9月27日）は、ローマ教皇ユリウス2世の庶出の娘として生まれ、その生涯はルネサンス期のイタリア社会において特筆すべき足跡を残しました。「マドンナ・フェリーチェ（Madonna Felice）」とも呼ばれた彼女は、教皇を父に持つという特別な立場を背景に、政略結婚を通じて莫大な富を築き、教皇庁に隠然たる影響力を行使しました。

生い立ちと結婚

フェリーチェの母は、ローマの名家出身のルクレツィア・ノルマンニです。ユリウス2世はルクレツィアをデッラ・ローヴェレ家の家宰ベルナルド・デ・クピスと結婚させ、この結婚によって生まれた異父弟ジョヴァンニ・ドメニコ・デ・クピスは、後にレオ10世によって枢機卿に任命されています。フェリーチェは14歳で最初の結婚をしたとされるものの、その詳細は史料が少なく不明な点が多いです。

研究者のC・マーフィーは、フェリーチェが「男子が担うべき親族枢機卿の役割を心得ており」、実質的にその役割を果たしていたと指摘しています。ユリウス2世は娘のために政略結婚を画策していましたが、フェリーチェは23歳の時に父の許可を得ずに、20歳以上年上のジャン・ジョルダーノ・オルシーニと結婚しました。この結婚式にユリウス2世は参列しませんでした。

教皇庁への影響力

後世の記録やオルシーニ家の古文書に残されたフェリーチェの書簡から、彼女が父ユリウス2世のみならず、メディチ家出身のレオ10世とクレメンス7世、オランダ人のハドリアヌス6世といった歴代の教皇たちにも大きな影響力を持っていたことが明らかになっています。結婚後、フェリーチェは父に9000ドゥカート相当の贈り物をすることで和解しました。

経済的な成功を収めるため、フェリーチェはパロに城を購入し、小麦を生産してバチカンなどに輸出することで莫大な利益を得ました。

オルシーニ家との相続争い

夫ジャン・ジョルダーノとの間には、ジュリア（1507年）、ジュリオ（1508年）、フランチェスコ（1512年）、ジローラモ（1513年）、クラリーチェ（1514年）の5人の子供が生まれました。1517年に夫が亡くなると、フェリーチェはオルシーニ家の莫大な財産の管理権を握りました。しかし、オルシーニ家との結婚契約では、夫婦の間に息子が生まれても、夫の先妻の子であるナポレオーネが財産を優先的に相続することになっていました。

フェリーチェはフランチェスコとジローラモという2人の息子をもうけましたが（長男ジュリオは早世）、次男をオルシーニ家の相続人に選んだことで、先妻の長男ナポレオーネとの対立が激化しました。また、幼くして亡くなった2人の娘にも遺産の3分の1を与えています。1527年のローマ略奪後、実子ジローラモと継子ナポレオーネの跡目争いはさらに激化しました。

その後の人生と遺産

フェリーチェは後にアントネッロ・ディ・サンセヴェリーノと再婚しました。アントネッロは亡命中のサレルノ公で、ウルビーノ公国の国主グイドバルド・ダ・モンテフェルトロの甥でした。彼女の血統はスフォルツァ家、ボルゲーゼ家、ボンカンパーニ＝ルドヴィージ家などに受け継がれ、彼女の遺した影響は、その後の歴史にも深く刻まれています。

フェリーチェ・デッラ・ローヴェレは、教皇の娘として生まれながらも、自らの才覚と戦略によって権力と富を手に入れた、ルネサンス期を代表する女性の一人です。彼女の生涯は、当時の社会における女性の地位や役割、そして政治と経済が複雑に絡み合った状況を物語る重要な事例と言えるでしょう。

もう一度検索