フェンダー・ベースVI

フェンダー・ベースVI：異色の6弦ベースの軌跡

フェンダー・ベースVI（Fender Bass VI）は、フェンダー社が1961年に発表した6弦エレクトリックベースです。通称「ベースシックス」とも呼ばれ、その独特のサウンドと個性的なデザインから、多くのミュージシャンを魅了し続けています。本稿では、ベースVIの歴史、特徴、そして使用ミュージシャンなどを詳細に解説します。

誕生とデザイン

ベースVIは、ダンエレクトロが1956年に発表した6弦ベース「E-E」のコンセプトを継承し、ジャズマスターのデザイン思想を導入して誕生しました。ボディや電気系統は翌年発売のジャガーと非常に近似しており、ジャガーシリーズの最初のモデルとも捉えることができます。

しかし、ベースVIはプレシジョンベースとは大きく異なります。6弦であることに加え、ショートスケールネックと細い弦を採用している点が特徴です。3基のピックアップと、各ピックアップのオン／オフを切り替えるスイッチ、そして「ベースカット」スイッチを備えていました。

ジャガー同様、ベースVIは幅広でアールがはっきりとした指板を持ち、演奏には独特のテクニックとセットアップが必要です。弦間隔が狭く弦も細いことから、ギター奏者には快適ですが、従来のベーシストには不慣れなものだったかもしれません。

演奏性とサウンド

ベースVIは、その高い演奏性と多彩なサウンドが特徴です。3基のピックアップとスイッチ類により、幅広いサウンドメイクが可能で、ソロプレイにも適しています。しかし、1960年代にはエレクトリックベースでソロを演奏するミュージシャンは少なかったため、そのポテンシャルは十分に発揮されませんでした。

実際には、バリトンギターとして使用されることも多く、ギターアンプと接続すればバリトンギターとしてのサウンド、ベースアンプと接続すればベースとしてのサウンドが得られました。この楽器の「どっちつかず」な性質が、その魅力であり、同時に普及を妨げる要因でもありました。サーフミュージックやカントリーミュージックなど、サウンド的に適したジャンルにおいても、プレシジョンベースほどの評価を得るには至りませんでした。

生産終了と復刻

オリジナルモデルは1975年に生産終了となりましたが、2006年にフェンダーカスタムショップより限定生産で復刻されました。2012年にはフェンダー・ジャパンからも復刻モデルが発売され、ネック内部にチタニウム補強材が埋め込まれるなど、改良が加えられました。現在では、中古市場で高値で取引される希少な楽器となっています。

関連楽器：フェンダー・ジャガー・バリトン

2004年には、ベースVIとジャガーを融合させたような「フェンダー・ジャガー・バリトン」（後に「ジャガーベースVI」と改名）が発表されました。ベースVIと同じ弦とチューニングを採用しながら、ジャガータイプのボディと2基のピックアップ、固定ブリッジ、ファズ回路を搭載しています。

使用ミュージシャン

ベースVIは、多くの著名なミュージシャンに愛用されてきました。その中には、クリームのジャック・ブルース、ザ・キュアーのロバート・スミス、ザ・フーのジョン・エントウィッスル、ビートルズのジョージ・ハリスンとジョン・レノン、ザ・バンドのリック・ダンコ、エアロスミスのジョー・ペリー、L'Arc〜en〜Cielのtetsuya、クラムボンのミト、スピッツの田村明浩などが含まれます。

特にビートルズの楽曲「ヘイ・ジュード」のテレビ出演映像や映画「レット・イット・ビー」では、レノンとハリスンがベースVIを演奏している様子が確認できます。また、アルバム『アビイ・ロード』でも使用されています。

まとめ

フェンダー・ベースVIは、その独特の仕様とサウンドにより、多くのミュージシャンを魅了し、今もなお伝説的な楽器として語り継がれています。希少性と個性的なデザイン、そしてその歴史的背景から、ヴィンテージ楽器として高い人気を誇るベースVIは、これからも多くの音楽家達を惹きつけていくことでしょう。

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