フォックストロット (ジェネシスのアルバム)

フォックストロット (Foxtrot)

『フォックストロット』は、イギリスのプログレッシブ・ロック・バンド、ジェネシスが1972年に発表した通算4枚目のスタジオ・アルバムです。前作までの作品で独自の世界観を構築してきた彼らが、本作で初めて商業的な成功を収め、後のキャリアを決定づける重要なターニングポイントとなった作品として知られています。

アルバムタイトルである「フォックストロット」は社交ダンスの一種ですが、ジャケットにはその名前と英語の「フォックス（Fox）＝キツネ」という言葉をかけた洒落として、キツネの絵が描かれています。このユニークな視覚表現もまた、当時のジェネシスが持っていた演劇的、物語的な側面を象徴しています。

本作は、当時のジェネシスを構成していたピーター・ガブリエル（ボーカル、フルート、オーボエ、パーカッション）、スティーヴ・ハケット（ギター、12弦ギター）、トニー・バンクス（オルガン、メロトロン、ピアノ、エレクトリックピアノ、12弦ギター、バッキング・ボーカル）、マイク・ラザフォード（ベース、ベース・ペダル、12弦ギター、チェロ）、フィル・コリンズ（ドラムス、パーカッション、バッキング・ボーカル）という黄金期のメンバーによって制作されました。作曲は全曲がこの5人の共作クレジットとなっています。

彼らが生み出した音楽は、複雑な構成、ドラマティックな展開、多様な楽器編成、そしてピーター・ガブリエルによるストーリーテリングに乗せた独創的なボーカルワークが特徴です。特に、23分を超える大作「サパーズ・レディ」は、プログレッシブ・ロックにおける組曲の傑作として語り継がれており、様々な楽想が次々と現れる壮大な楽曲です。また、メロトロンの印象的なサウンドで幕を開ける「ウォッチャー・オブ・ザ・スカイズ」もオープニングを飾るにふさわしいダイナミックな楽曲で、ライブでも重要なレパートリーとなりました。他の収録曲も、「タイム・テーブル」、「ゲッテム・アウト・バイ・フライデイ」、「キャン-ユーティリティ・アンド・ザ・コーストライナーズ」といった物語性を感じさせるタイトルが並びます。唯一のインストゥルメンタル楽曲「ホライズンズ」は、アコースティック・ギターによる短いながらも美しい小品です。

『フォックストロット』はリリース後、全英アルバムチャートにおいてバンド史上初のトップ100入りを果たし、最高位12位を記録しました。これにより、ジェネシスはイギリス国内における人気と評価を不動のものとし、後の大規模なライブ活動へと繋がっていきます。本作はまた、世界中のプログレッシブ・ロックファンに愛され続け、その後の多くのアーティストに影響を与えました。

バンドのメンバーにとっても思い入れの深い作品であり、ギタリストのスティーヴ・ハケットは、1996年に発表したセルフカバーアルバム『ジェネシス・リヴィジテッド』において、本作の収録曲「ウォッチャー・オブ・ザ・スカイズ」を改めて自身の解釈でレコーディングしています。

収録曲は以下の通りです。

1. 「ウォッチャー・オブ・ザ・スカイズ」 - "Watcher of the Skies" – 7:23
2. 「タイム・テーブル」 - "Time Table" – 4:46
3. 「ゲッテム・アウト・バイ・フライデイ」 - "Get'em Out by Friday" – 8:35
4. 「キャン-ユーティリティ・アンド・ザ・コーストライナーズ」 - "Can-Utility and the Coastliners" – 5:44
5. 「ホライズンズ」 - "Horizons" – 1:41 (インストゥルメンタル)
6. 「サパーズ・レディ」 - "Supper's Ready" – 23:05

参加ミュージシャンは以下の通りです。

ピーター・ガブリエル - ボーカル、フルート、オーボエ、パーカッション
スティーヴ・ハケット - ギター、12弦ギター
トニー・バンクス - オルガン、メロトロン、ピアノ、エレクトリックピアノ、12弦ギター、バッキング・ボーカル
マイク・ラザフォード - ベース、ベース・ペダル、12弦ギター、チェロ
* フィル・コリンズ - ドラムス、パーカッション、バッキング・ボーカル

『フォックストロット』は、ジェネシスの創造性がピークを迎えた時期の作品であり、プログレッシブ・ロックというジャンルを代表するアルバムの一つとして、現在も高く評価されています。その音楽性、アートワーク、そして商業的な成功は、バンドの歴史において非常に重要な位置を占めています。

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