フォリーニョのアンジェラ

フォリーニョのアンジェラ：中世イタリアの神秘家

フォリーニョのアンジェラ（イタリア語: Angela da Foligno）は、13世紀後半から14世紀初頭にかけて生きたカトリック教会の聖人であり、キリスト教神秘家の代表的な人物です。正確な誕生日は不明ですが、一般的に1248年生まれとされ、1309年 1月4日にその生涯を終えました。彼女はフランシスコ会第三会員として活動し、「神学教師」（Magistra Theologorum）とも称されるほど、深い霊的知識と洞察を持っていました。

裕福な家庭に生まれたアンジェラは、若い頃は世俗的な生活を送り、結婚して数人の子供にも恵まれました。著作の中では、当時の自分が現世の楽しみを深く愛していたことを記しています。しかし、40代を迎える頃、アッシジのフランチェスコの幻視体験を機に、それまでの生き方の虚しさに気づき、劇的な回心を遂げます。この霊的な目覚めの後、彼女はより神に捧げられた人生を歩むことを決意しました。

回心から約3年後、アンジェラは母親を亡くし、さらにその数ヶ月後には夫と子供たち全員を失うという悲劇に見舞われます。これらの出来事を経て、彼女は完全に世俗との繋がりを断ち、神にのみ仕える者として生きることを選びます。マザツオラという女性を伴侶とし、自身の財産を全て手放して、悔い改めの生活に入りました。およそ1291年頃、アンジェラはフランシスコ会第三会に加わり、フランシスコ会士アルノルドを霊的指導者および聴罪司祭として支えを受けながら、その信仰を深めていきました。

アンジェラの霊的な旅路は、多くの神秘的な啓示に満ちていたと伝えられています。これらの体験や深い教えは、口述筆記という形で記録され、『フォリーニョのアンジェラの書』（Il Libro della Beata Angela da Foligno）として後世に伝えられました。この書物は大きく二つの部分から構成されています。一つは、彼女の回心から霊的な進歩の初期段階を詳細に記した「追悼（Memoriale）」です。これはアンジェラ自身が故郷のウンブリア方言で口述し、「修道士B」として知られる人物によってラテン語に翻訳されました。もう一つは、その後のより深い霊的洞察や教えをまとめた「指導（Instructions）」です。

「追悼」の記録は1292年頃に始まりましたが、アンジェラの神秘体験の深さゆえに、記録者である「修道士A」（修道士Bと同一人物か、あるいは別の人物かは諸説あり）は、その全てを理解しきれず、体験を7つの段階に整理せざるを得なかったとも言われています。この部分は1298年に完成し、枢機卿やフランシスコ会士たちの承認を得ました。その後、「指導」の部分が加筆され、アンジェラの晩年の教えが反映されています。これは、より修道会的な記述を含む、霊的生活の実践的な手引きとなっています。

1296年頃からアンジェラの聖性に対する評価は高まり、彼女のもとには男女を問わず多くの人々が集まるようになりました。彼らはアンジェラの弟子となり、共に霊的な高みを目指す一つの共同体を形成しました。アンジェラは閉鎖的な修道院に入ることを選びませんでしたが、自らの指導のもと、フォリーニョに修道女たちのコミュニティを設立しました。

彼女の教えは、神の光による導きの重要性と、祈りの絶え間ない実践を強調しています。有名な言葉に次のようなものがあります。

「誰も神のあかり無しに救われるものはいない。私たちは神のあかりによって始め、進める。そして神のあかりは私たちを完成の極みに導く。それゆえ、もしあなたが始めたいのなら、そして神のあかりを受けたいのなら、祈りなさい。そしてもしあなたが完成の頂上に立ちたいのなら、そして、そのままの状態で多いに照らされたいのなら祈りなさい。もしあなたが信仰が欲しいなら祈りなさい。もしあなたが希望するなら、祈りなさい。もしあなたが、慈愛が欲しいなら祈りなさい。もし、あなたが貧困を求めるなら、祈りなさい。もしあなたが服従を求めるなら、祈りなさい。あなたが純正を望むならば、祈りなさい。あなたが謙遜を望むならば、祈りなさい。あなたがおとなしさを望むならば、祈りなさい。あなたが不屈の精神を望むならば、祈りなさい。あなたが美徳を望むならば、祈りなさい。」（聖ベルト・ゲッツィの声より）

そして、祈りの具体的な対象として、キリストの生涯に倣うことを勧めました。

「そしてこの流儀に従って祈りなさい。いつでも人生の書を読むことは、それは、神である人間イエスキリストの人生は貧困、痛み、軽蔑と本当の服従から成っていた。」（同上）

1308年のクリスマス、アンジェラは自らの死が近いことを弟子たちに告げました。そして数日後、キリスト自身が現れて彼女を天国へ迎えに行くことを約束したと伝えられています。1309年1月3日、アンジェラは弟子たちに見守られながら安らかに息を引き取りました。彼女の遺体はフォリーニョの聖フランチェスコ教会に安置されており、死後も腐敗しないという奇跡が報告されています。

アンジェラは1701年 7月11日に教皇クレメンス9世によって列福され、そして2013年 10月9日には教皇フランシスコによって列聖されました。聖アンジェラの祝日は、特にフランシスコ会第三会で祝われ、アメリカ合衆国では1月7日に記念されています。

その著作を通じて深い霊的洞察を示し、また独自の共同体を築いて多くの人々を信仰へと導いたフォリーニョのアンジェラは、中世における重要な神秘家の一人として、今なお多くの人々に尊敬されています。

もう一度検索