フォルクスワーゲン・ポロ R WRC

フォルクスワーゲン ポロ R WRC：WRCを席巻した最強マシン

2013年から2016年にかけて、世界ラリー選手権（WRC）で輝かしい成績を収めたフォルクスワーゲン・ポロ R WRC。本記事では、その開発から運用、そして伝説的な活躍と突然の終焉までを詳述します。併せて、WRC参戦のためのホモロゲーション取得車両として販売された限定モデル、ポロ R WRCストリートについても解説します。

圧倒的な準備と開発

フォルクスワーゲンは、1990年以来WRCから遠ざかっていましたが、2009年から2011年にかけてダカール・ラリーを3連覇した経験を活かし、2013年のWRC復帰を果たしました。

ポロ R WRCの開発には、F1やWRCで実績のあるエンジニア陣が結集。ルノーやプジョーのF1、スバルのWRC活動にも携わったフランソワ＝グザビエ・ドゥメゾンを筆頭に、ザウバーで技術部門責任者を務めたウィリー・ランプも指導に加わりました。約17ヶ月という短期間で開発されたマシンは、ボディ幅を規定限界まで拡大し、力強いオーバーフェンダーを備えていました。

セバスチャン・オジェとカルロス・サインツという、当時世界トップクラスのドライバーを擁し、シトロエンを上回る資金を投入して徹底的なテストを実施。4800kmの実走行テストと120回以上のステージをこなすなど、万全の準備を整えWRCに挑みました。高地でのテストのためにメキシコまで遠征するなど、その準備の徹底ぶりは関係者の間で大きな話題となりました。

圧倒的なパフォーマンスと勝利

ポロ R WRCは1.6L直列4気筒ターボチャージャー付きガソリン直噴エンジンを搭載。最高出力は318PSでしたが、レギュレーションにより300PSに制限されていました。6速シーケンシャルミッションと4WDシステムを組み合わせ、0-100km/h加速は驚異の3.9秒を記録しました。サスペンションは、ストロークの長さやフリクションの低減において、他メーカーのWRカーの中間的な設計となっていました。

2013年のデビューイヤーから圧倒的な強さを発揮。ラリー・モンテカルロでいきなり2位入賞を果たし、続くスウェーデンラリーで初優勝を飾りました。そして、その年にはドライバーズとマニュファクチャラーズの両タイトルを獲得。

続く2014年には、13戦中12勝という驚異的な成績を収め、WRC年間最多勝利記録を打ち立てました。オジェ/イングラシア組はドライバーズ/コドライバーズタイトルを4連覇、フォルクスワーゲンもマニュファクチャラーズタイトルを4連覇。2010年代中盤のWRCを完全に支配しました。その勝率は、WRカー最強と言われたシトロエン・C4 WRCをも凌駕するものでした。

突然の終焉と幻の2017年モデル

しかし、フォルクスワーゲンのディーゼル不正問題が、栄光の終わりを告げました。2016年11月、フォルクスワーゲンはWRCからのワークス撤退を発表。既に完成していた2017年モデルのホモロゲーションがFIAによって却下されたため、プライベーターへのマシン供給も実現しませんでした。

現在、フォルクスワーゲンモータースポーツのファクトリーには、2017年モンテカルロラリー仕様のリバリーを纏った2017年モデルが保管されていると言われています。将来、デモランなどが行われる可能性も示唆されていますが、2022年現在も実現には至っていません。

ポロ R WRC ストリート：公道仕様の限定モデル

WRC参戦のためのホモロゲーション取得を目的として、2500台限定で販売されたポロ R WRCストリート。ブルーとグレーのストライプがワークスマシンを彷彿とさせ、専用スポーツシートやアルカンターラのステアリングなど、レーシングスピリット溢れるインテリアが特徴です。

エクステリアは、スプリッターやエアダクト、大型ルーフスポイラー、ディフューザーを装備。サスペンションも強化され、18インチホイールを装着。エンジンはゴルフVII用の2.0L TSIエンジンを搭載し、最高出力220PS、0-100km/h加速6.4秒という優れた性能を誇りました。駆動方式はFFです。日本への正規輸入はされませんでしたが、一部並行輸入車が存在しています。

ポロ R WRCは、WRCの歴史に燦然と輝く、伝説的なマシンとして記憶されています。その圧倒的な強さと突然の終焉は、多くのファンに深い印象を残しました。

もう一度検索