フタル酸

フタル酸類：性質と用途

フタル酸類は、ベンゼン環に2つのカルボキシル基(-COOH)が結合した有機化合物群です。代表的なものとして、オルト体であるフタル酸、メタ体であるイソフタル酸、パラ体であるテレフタル酸が挙げられます。これらの異性体は、それぞれ異なる性質と用途を持ちます。

フタル酸類は一般的に、昇華性を示す無色固体であり、水への溶解度は低いものの、極性有機溶媒には溶けやすい性質を持っています。その用途は多岐に渡り、特にエステル体は、熱可塑性樹脂の可塑剤として広く使用されています。可塑剤としての添加量は、樹脂の種類にもよりますが、30～70%程度に及ぶこともあります。

フタル酸類の製造方法

フタル酸類の工業的製造は、主にアルキルベンゼンの酸化によって行われます。古くはナフタレンが原料として用いられていましたが、現在では石油化学製品であるキシレン類が主要な原料となっています。

フタル酸の製造

フタル酸の工業生産においては、o-キシレンを原料とした触媒空気酸化法が主流です。この方法では、五酸化バナジウムなどの触媒を用いて、o-キシレンを空気酸化することでフタル酸無水物が生成されます。必要に応じて、この無水物を加水分解することでフタル酸を得ることができます。フタル酸無水物は、そのまま誘導体の合成原料としても利用されます。

イソフタル酸の製造

イソフタル酸は、m-キシレンを原料とした触媒空気酸化法によって製造されます。テレフタル酸の製造法と同様に、Amoco法などの方法が用いられます。

テレフタル酸の製造

テレフタル酸の製造には、いくつかの方法が知られています。

Amoco法: p-キシレンを原料とし、Mn塩やCo塩を用いた液相空気酸化を行います。この方法では、p-トルイル酸を中間体として経由し、最終的にジメチルテレフタレート（DMT）を経てテレフタル酸が得られます。DMTはポリエチレンテレフタレート（PET）の原料モノマーであるため、この方法は効率的です。
第一Henkel法: フタル酸ジカリウム塩をZn-Cd触媒を用いて異性化させる方法です。コスト面でAmoco法に劣るため、現在ではあまり使用されていません。
第二Henkel法: 安息香酸カリウム塩をZn-Cd触媒を用いて不均化反応させる方法です。第一Henkel法と同様に、現在では使用されていません。
アンモ酸化法 (Lummus法): p-キシレンを五酸化バナジウム触媒を用いてアンモ酸化し、フタロニトリルを生成した後、加水分解してテレフタル酸を得る方法です。この方法では、窒素不純物の混入に注意が必要です。

フタル酸エステルの製造

フタル酸類のエステルは、対応するフタル酸無水物とアルコールを反応させることで得られます。通常、過剰なアルコールを共沸脱水剤として用いることで、ジエステルが効率的に合成されます。

フタル酸類の誘導体

フタル酸類は、様々な重要な誘導体を形成します。

フタル酸無水物

フタル酸の分子内脱水によって得られる無色結晶です。多くのフタル酸誘導体の合成原料として利用されます。

フタルイミド

フタル酸無水物とアンモニアまたは炭酸アンモニウムを反応させることで得られます。ガブリエル合成における重要な中間体として知られています。

フタル酸エステル

フタル酸のエステルは、可塑剤として広く利用されています。様々なアルコールとのエステルが合成され、用途に応じて使い分けられています。

その他の誘導体

フェノールフタレイン、サリドマイド、アプレミラスト、ポマリドミド、キニザリン、ルミノール、フタロシアニンなど、多くの重要な化合物がフタル酸誘導体として知られています。これらは染料、医薬品、蛍光物質など、多様な用途に用いられています。

まとめ

フタル酸類は、その多様な性質と用途から、工業的に非常に重要な化合物群です。その製造法は、原料や目的とする製品によって最適な方法が選択されており、今後もその需要は継続すると考えられます。

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