フトヘナタリ

フトヘナタリ（太甲香）について

フトヘナタリ（学名: Cerithidea moerchii）は、キバウミニナ科に属する巻貝の一種です。主に東アジアから東南アジアにかけて広がる地域に生息する汽水性の貝で、従来、「ウミニナ類」として知られるグループに分類されてきました。和名では「フトヘナタリガイ」とも呼ばれ、沖縄周辺の細長い形状を持つものは、イトカケヘナタリと名付けられることもありますが、これは単なる地理的な変異に過ぎないと考えられています。

分布

この貝は、日本では松島湾以南の沿岸、さらに朝鮮半島、中国、ベトナムの大陸沿岸部にも分布しています。日本では、大陸と繋がっていた時期から生息していた種が、現在の湾奥に残存しているとされています。

特徴

フトヘナタリの成貝は、殻高約40mm、殻径約20mmの塔形をした堅質な殻を持っています。一般的に殻頂が欠けた形状で、約6階の螺層があり、それぞれがよく膨らんでいます。表面は、螺肋と縦肋の交わりによって粗い布のような模様が形成されており、色は明るい白から黒褐色に至るまで様々です。特に、巻きの中ほどには濃い色帯が多く見られますが、殻表が浸食されてしまったものもあり、そうした個体は一様な灰色になることがしばしばです。

日本国内のウミニナ類では、他種と比べて大型で殻頂が欠けているため容易に見分けることができます。近縁のヘナタリとの和名は似ているものの、殻径が太いためにこの名が付けられています。しかし、西日本の瀬戸内海や有明海、大陸沿岸にはシマヘナタリなどの類似種も分布しており、特にシマヘナタリとの識別は困難な場合があります。

生態

フトヘナタリは内湾の潮間帯に生息し、アシ原やマングローブに点在する汽水域の砂泥干潟に見られます。この貝はしばしば群れを作り、他の貝類やカニ類、さらには植物と共に生物群落を形成します。特に満潮線近くのあまり水がかからない区域を好み、非水生の生物たちと共存していることが特徴です。また、砂泥や植物、コンクリートの壁などに頻繁に登る習性があります。

食性は主にデトリタスを摂取することが多く、特に春から秋にかけては干潮時に地面を這い回る姿が見られ、「プチプチ」という音が響きわたることもあります。水に濡れることを嫌うため、砂泥の上だけでなく、高所によじ登ったり、蓋をしない水槽内から逃げ出そうとする活発な行動が見受けられます。水に濡れない時には貝殻を閉じて静かに休むほか、特定の高さに登った個体は粘液で殻口を固定し、ぶら下がる姿も観察されています。

繁殖行動においてオスはペニスを持たず、つがいでメスに精子の入ったカプセルを渡します。この精包はメスの体内で徐々に溶け、卵への受精が行われます。産卵期は夏であり、泥地に紐状の卵塊を産みつけることが特徴です。孵化した幼生はしばらくプランクトン生活を送ります。

分類

21世紀初頭まで、この貝はCerithidea rhizophorarumとして知られていましたが、これはフィリピンに固有の別種であり、正しくはCerithidea moerchiiとするのが妥当とされています。

人との関係

地域によっては、他のウミニナ類と同様に食用に利用されることもあります。

レッドリスト掲載状況

現在、フトヘナタリは日本の環境省のレッドリストにおいて準絶滅危惧（NT）に分類されています。これまでに確認された生息状況は、千葉県や佐賀県では絶滅危惧I類、高知県では絶滅危惧II類に位置付けられています。他県でも様々な評価があり、特に南日本の干潟では普遍的に見られる貝ですが、埋立や浚渫によってその生息地は減少しているため、保護が必要な重要な生物とされています。

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