フライ (鉄板焼)

埼玉県北部のソウルフード「フライ」：鉄板焼きの妙味

埼玉県北部、特に行田市周辺地域で親しまれているご当地グルメ「フライ」。その名はシンプルながら、揚げ物とは全く異なる、独特の鉄板焼き料理を指します。地元住民にとって「フライ」といえば、この料理を指すほど、深く浸透しています。

フライの特徴：お好み焼きとクレープ、そしてそれ以上

「フライ」は、油を引いた鉄板で水で溶いた小麦粉生地を薄く焼き上げる料理です。行田市のホームページなどでは、お好み焼きとクレープの中間のような食べ物と表現されることもありますが、実際にはそれ以上の奥深さを持っています。お好み焼きとガレットの中間、あるいは素朴なねぎ焼きやチヂミといった表現も当てはまるでしょう。

生地に、豚肉や長ネギ、干海老、切りイカといった様々な具材を乗せて焼き上げます。店舗によって具材の種類や組み合わせは異なり、中には黄身を落とした目玉焼きを乗せたり、キャベツを加えるお店もあるようです。

調理工程では、鍋蓋などで生地を押さえつけることで、具材の旨みを全体にいき渡らせる工夫がなされています。焼きあがったフライには、醤油やウスターソースを塗り、青海苔を振って仕上げます。多くの場合、店では大皿に広げた円形の状態で提供され、持ち帰りは半分に折り畳んで包装されます。鴻巣市の吹上地区では、揚げパン粉を振るお店もあるようです。

サイズは、大、中、小の3種類を用意しているお店が多いのが一般的です。値段はサイズによって異なり、小が200円～300円、大が400円～500円程度と、サイズが大きくなるほど値段も高くなります。しかし、中には具材を充実させたり、無料で目玉焼きを追加できるサービスを提供するお店もあります。

焼きそばとのセットメニューも人気で、お店によって提供方法が異なります。「フライ」と「焼きそば」を別々の皿で提供するお店もあれば、同じ皿に盛るお店、あるいは焼いた「フライ」を二つ折りにして焼きそばを挟み込むお店など、バリエーション豊かです。「ミックス」や「フライ焼きそば」などと呼ばれることが多いようです。

フライとゼリーフライ：混同しやすいが別物

「フライ」とよく混同されるのが、ゼリーフライです。ゼリーフライは揚げ物であるのに対し、「フライ」は鉄板焼きであるため、全く異なる料理です。両方を扱っているお店は少なく、「フライ」は専門店、「ゼリーフライ」は精肉店などで他の揚げ物と一緒に販売されるのが一般的です。

フライの歴史：足袋工場と女工たちから生まれたソウルフード

「フライ」の起源は、行田市天満にあった古沢商店（2018年閉店）の初代店主が、1925年（大正14年）頃に近くの足袋工場で働く女性工員のために休憩時のおやつとして提供したのが始まりと言われています。当初はフライパンで焼いていたことから「フライ焼き」と呼ばれ、手軽な値段で腹持ちが良いことから、女性工員を中心に親しまれていきました。

最初は小麦粉と水だけのシンプルなものでしたが、次第に長ネギを加えたり、ソースではなく醤油で味付けするなど、様々なバリエーションが生まれました。生地に砂糖を加えてホットケーキのようなフライを作るお店もあったそうです。「フライ焼き」から「フライ」へと名前が省略されたのは、その後です。

行田市の足袋工業の発展と歩みを共にし、布が来ると書いて「布来（フライ）」、富が来ると書いて「富来（フライ）」といった当て字も用いられるようになりました。

フライの現在：行田、熊谷、羽生、鴻巣の地域グルメ

現在、「フライ」は行田市を中心として、熊谷市、羽生市、鴻巣市の旧吹上町域の4市で50軒ほどの「フライ屋」が存在します。地元住民にとっては馴染み深い料理であり、行田市では観光資源としても積極的に活用されています。

行田市観光協会は「行田フライマップ」を作成し、市役所や駅などで配布しており、森田信吾のグルメ漫画「駅前の歩き方」やテレビの情報番組でも取り上げられるなど、高い注目を集めています。一方で、フライ屋さんの主たる顧客は地元住民であるため、観光客が多い日曜日が定休日のお店もあるようです。

熊谷市でも「フライ」を公式に名物料理として位置づけ、メディアで紹介される機会も増えています。一方、鴻巣市や羽生市では、自治体レベルでの積極的な取り組みは少ないようです。

2017年には、行田の「フライ」はゼリーフライとともに、「日本遺産」に認定されています。また、「100年フード」にも認定されており、その歴史と文化的な価値が認められています。

「フライ」は、地元住民に愛されるソウルフードであり、同時に、地域の文化と歴史を伝える貴重な存在なのです。

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