揚げ物

揚げ物：高温の油でつくる、魅力的な料理の世界

揚げ物、あるいは揚げ料理とは、高温の油を用いて食材を加熱調理する技法、そしてその調理法によって作られる料理を指します。水で煮る調理とは異なり、油の沸点（摂氏100度以上）の高さによって、短時間で高温調理が可能になります。この高温調理によって、食材の表面は瞬時に水分が蒸発し、熱変性によって硬い殻が形成され、独特のパリッとした食感が生まれます。一方、内部は水分を保持し、柔らかな食感を実現します。料理によっては油が吸収され、風味に深みが増すのも特徴です。ただし、油を用いた調理すべてが揚げ物とは限りません。コンフィやアヒージョなどは、意図的に高温にしない調理法であり、異なる風味を生み出します。

揚げ物の歴史：日本での普及と世界的な広がり

日本には奈良時代に、中国から伝わった唐菓子や精進料理などを通じて揚げ物の調理法が導入されました。しかし、当時ゴマ油が主な食用油であり、生産量が少ないこと、流通コストが高いことから、広く普及するには至りませんでした。状況が一変したのは戦国時代末期。織田信長の楽市楽座政策によって流通が容易になり、江戸時代初期には菜種油が主流となり、生産量が増加しました。同時に、天ぷらの普及や醤油の開発・流通も追い風となり、揚げ物は日本人の食卓に広く浸透していきました。

一方、古代ローマのレシピ集『アピキウス』には、鶏料理の下準備として揚げる技法が記述されており、ヨーロッパにも古くから揚げ物の調理法が存在したことがわかります。ただし、「deep-fry」という英語表現が文献に登場するのは1930年代になってからです。日本に伝来した天ぷらの調理法が、ヨーロッパの揚げ物調理法に影響を与えた可能性もあります。

揚げ物調理器具：鍋から業務用フライヤーまで

揚げ物には、鍋とフライヤーという2種類の主要な調理器具が用いられます。家庭では、銅、鉄、アルミ、ステンレス製の天ぷら鍋が一般的です。油切り用の天ぷら網を併用することも多く、温度計が付いている製品もあります。

一方、業務用や、より高度な温度管理を求める場合は、電気式またはガス式のフライヤーが用いられます。電気式の卓上型フライヤーは、温度調節の精度が高く、持ち運びやすく、油ハネの心配が少ない利点があります。店舗などでは、大量調理に適した大型の業務用フライヤーが使用されます。

揚げ方：油の種類、温度、食材の量

揚げ物の成功には、油の種類、温度、食材の量など、様々な要素が関わってきます。揚げ油には、ごま[[油]]、米油、サラダ油、綿実油、白絞油、椿[[油]]、ショートニングなどの植物油脂や、ラード、バターなどの動物性油脂など、さまざまな種類があります。料理や地域、嗜好によって最適な油は異なります。サクッとした食感を重視する場合は、ショートニングなど、軟化点の高い油脂が用いられることもあります。

油の温度管理も重要です。温度計を用いるのが理想的ですが、少量の衣を油に落として様子を見る方法もあります。温度が低すぎると油を吸ってベタベタになり、高すぎると焦げ付きやすくなります。一度に揚げる食材の量は、油の表面積の1/3程度に留めるのが適切です。油の温度は300℃を超えると白煙が発生し、370℃で自然発火する危険性がありますので、火の管理には細心の注意が必要です。

廃油処理：安全な処理方法とリサイクルの取り組み

揚げ終わった油は、油こしで濾過し、冷暗所で保存すれば2～3回は再利用できます。ただし、熱いまま廃油を廃棄すると、天かすの熱で油の酸化が促進され、発火の危険性があります。必ず室温まで冷ましてから廃棄しましょう。家庭では、冷めた油を新聞紙やキッチンペーパーに吸わせて捨てる方法が一般的です。廃油凝固剤を使用する方法もあります。飲食店などでは、グリストラップを設置し、専門業者に回収してもらうことが義務付けられています。近年では、廃油を工業用脂肪酸、塗料樹脂の原料、ゴム添加剤、石鹸原料などにリサイクルする取り組みも進んでいます。

揚げ物の種類：素揚げ、衣揚げ、そして多様な料理

揚げ物は、大きく分けて素揚げと衣揚げに分類されます。素揚げは衣をつけずに食材を揚げる方法で、食材本来の色や形を生かした調理法です。衣揚げは、衣をつけて揚げる調理法で、衣の種類や具材によって、から揚げ、天ぷら、フライ、カツ、コロッケ、魚カツなど、多様な料理に分類されます。さらに、揚げ菓子というカテゴリーもあり、和菓子、洋菓子など様々な種類があります。

揚げ物の危険性と安全対策

熱した油は火傷や火災の危険性が高いです。油の温度管理を怠ると、火傷事故や火災につながる可能性があります。特に、天ぷら油火災は注意が必要です。揚げ物調理中は、常に油の温度に注意し、火のそばを離れないようにしましょう。また、油の飛び散りによる油汚れ、転倒、引火なども考慮し、安全に配慮した調理を行いましょう。

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