フランクフルト市電

フランクフルト市電の歩み

ドイツ有数の都市フランクフルト・アム・マインに、古くから市民の足として親しまれている路面電車があります。ドイツ語で「Straßenbahn Frankfurt am Main」と呼ばれるこの路面電車は、19世紀に端を発する軌道交通の歴史を受け継ぎ、現在は市の交通公社（VGF）によって運営されています。かつては地下鉄への置き換えが計画された時期もありましたが、近年は再びその価値が見直され、路線網の拡充も進められています。

黎明期の軌道交通

フランクフルトにおける最初の軌道交通は、1872年5月19日に開業した馬車鉄道でした。これを運営していたのは、ベルギー企業の傘下にあったフランクフルト路面鉄道会社（FTG）です。標準軌（1,435mm）を採用したこの馬車鉄道は、その後急速に路線を広げ、1898年には総延長30.5km、16系統を擁する大規模なネットワークへと発展しました。

一方、少し遅れて登場したのが、フランクフルトとマイン川対岸の都市オッフェンバッハを結ぶ路面電車です。1884年2月18日にフランクフルト-オッフェンバッハ路面鉄道会社（FOTG）によって開業したこの路線は、両市にとって初めての路面電車であり、ドイツ国内でも初期の事例の一つです。FTGとは異なり、軌間はメーターゲージ（1,000mm）を採用し、開業当初から架空電車線方式による電化がなされていた点が特徴でした。

その他にも、1888年にはフランクフルト北部から市内に乗り入れるフランクフルト地方鉄道会社（FLAG）の馬車鉄道が開業（後に蒸気機関車に転換）、1889年にはマイン川南部にフランクフルト森林鉄道会社（FWG）による蒸気機関車牽引の鉄道網が登場するなど、複数の事業者がそれぞれの路線を展開していました。フランクフルト市自身も1898年からはFTG路線の公営化を進め、軌道交通の運営に本格的に関与し始めます。

電化と公営化の波

当初から電化されていたFOTGに続き、FTGも路線の電化に着手します。充電池方式を試すも短期間で終了し、最終的には公営化後の1899年4月10日から架空電車線方式での電化が開始されました。FTG全線の電化完了は1904年6月です。FLAG路線は1910年に、FWG路線は第一次世界大戦後、1929年5月までにそれぞれ電化されました。

この時期には、フランクフルト市による軌道事業者の公営化も積極的に進められました。FOTGは1906年に市に買収され、軌間や設備が他の電化路線と統一されます。これにより、主要な事業者で民営として残ったのはFLAGのみとなり、タウヌス方面へ向かう系統は市との共同運営となりました。こうした電化と公営化、そして大規模な延伸工事の結果、1929年時点ではフランクフルトおよび周辺地域に合計32系統という広範な路面電車ネットワークが築かれていました。

戦災と復興、そして地下鉄化への転換

第二次世界大戦中、フランクフルトは激しい空襲にさらされ、路面電車網も甚大な被害を受けました。特に1944年3月の空襲は深刻でしたが、一部区間では負傷者や物資の輸送を細々と続けました。しかし、1945年3月には連合国の侵攻により全線が休止に追い込まれます。終戦後、復興作業は同年5月から始まり、破壊された施設の修繕や車両の復旧が進められ、1949年にはマイン橋を渡る重要な系統も運行を再開しました。

戦後の復興期、1950年代には周辺地域への新たな延伸も行われましたが、独立した民間事業者であったFLAGは施設の老朽化が進んでいました。フランクフルト市は1955年1月にFLAGを買収・公営化し、近代化に着手します。同時期には輸送力増強のため、デュッセルドルフ車両製造（デュワグ）製の大型連節車などの導入も始まりました。

1950年代から60年代にかけての急激な人口増加と自動車の普及は、フランクフルト市内に深刻な交通渋滞を引き起こしました。これに対応するため、路面電車に代わる新たな交通機関の検討が始まります。様々な議論を経て、1961年にフランクフルト市議会は、路面電車と同規格の車両が走行可能な地下鉄を建設し、将来的に路面電車を全面的に置き換えるという計画を決定します。1963年6月に最初の区間の建設が始まり、1968年10月4日にはフランクフルト初の地下鉄路線（フランクフルト地下鉄）が開業しました。

地下鉄網の拡大に伴い、路面電車の路線は順次地下鉄へと転換されていきました。特に都心部では、旧市街の一部を残して路面電車の姿が少なくなります。地下鉄化とは別に、採算性の問題などから廃止される路線もあり、路面電車の役割は縮小傾向にありました。

路面電車の見直しと再生

しかし、地下鉄化計画の進捗の遅さや高額な費用への懸念などから、1991年にフランクフルトの新たな交通計画が策定され、路面電車の役割が見直されることになります。これにより、1999年には約50年ぶりとなる新規路線の延伸（わずか200mでしたが）が実現しました。その後も、開発が進むレブシュトックフィアテル地区への延伸（2003年）や、沿線と中心部、Sバーン駅との連携を強化する新線開通（2011年、2014年）が行われ、再び路線網は拡大傾向にあります。また、車両面でも1990年代以降、バリアフリーに対応した超低床電車の導入が積極的に進められています。

一方、かつてフランクフルト市電の一部として一体的に機能していたオッフェンバッハ市内の区間は、同市の交通事情の変化もあり、Sバーン開業後の1996年に全線が廃止されました。現在、オッフェンバッハ方面への乗り入れは、市境に位置する電停までとなっています。

フランクフルト市電の運営は、1996年までは市による直接運営でしたが、同年以降は市が出資するフランクフルト市交通公社（VGF）に移管されています。

特徴的な車両と観光列車

フランクフルト市電の車両形式は、1899年の本格的な電化時に導入された車両からアルファベット（A, B, ...）が付けられる伝統があり、現在の最新車両にも引き継がれています。現在運用されている車両の多くは超低床電車であり、バリアフリー化が進んでいます。また、引退した多くの車両はフランクフルト交通博物館に保存されており、一部は動態保存として運行されることもあります。

フランクフルト市電を語る上で欠かせないのが、1977年に登場した観光列車「エッベルヴァイ・エクスプレス」です。古い2軸車を改造したこの列車は、市街地を環状運転しながら、車内でフランクフルト名物のリンゴワイン（エッベルヴァイ）や軽食を提供しています。そのユニークなサービスは人気を博し、1997年までに累計100万人以上の利用者を記録しています。観光利用だけでなく、様々な用途での貸し切り運転にも対応しています。

現在、フランクフルト市電は臨時系統や「エッベルヴァイ・エクスプレス」を含め、いくつかの系統が運行されています。これらの系統番号は、所属するライン＝マイン運輸連合（RMV）の基準に基づき設定されています。

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