フランシス・ブーシェ

フランシス・ブーシェ：ヌーヴェルヴァーグの知られざる立役者

フランシス・ブーシェは、フランスの映画監督、テレビプロデューサーであり、ヌーヴェルヴァーグの先駆けとして重要な役割を果たした人物です。彼は、モーリス・シェレール（後のエリック・ロメール）、ジャック・リヴェットとともに映画批評誌『ラ・ガゼット・デュ・シネマ』を創刊したことで知られています。

若き日の活動と『ラ・ガゼット・デュ・シネマ』

1948年頃、ブーシェはモーリス・シェレールが主宰するシネクラブ「シネクラブ・デュ・カルチェ・ラタン」に参加します。そこには、ジャン＝リュック・ゴダールやエルネスト・ド・スーザといった後のヌーヴェルヴァーグを牽引する才能が集まっていました。1949年には、ジャン・コクトーが会長を務める「オブジェクティフ49」主催の「呪われた映画祭」に参加し、フランソワ・トリュフォーとも出会っています。

1950年、ブーシェは『ラ・ガゼット・デュ・シネマ』の創刊を主導します。この雑誌は、ロメール、リヴェットとともに映画批評の新たな地平を切り開くものでした。ゴダールもハンス・リュカス名義で寄稿するなど、若き映画人たちの熱気が集結していました。しかし、『ラ・ガゼット・デュ・シネマ』は短命に終わり、そのメンバーは後にアンドレ・バザンらが創刊する『カイエ・デュ・シネマ』へと合流します。

映画制作への進出

1950年代後半から、ブーシェはロメール、リヴェット、ゴダールらと同様に映画制作の現場に入ります。1958年には、レイモン・ヴォジェル監督のドキュメンタリー『Le Siècle a soif（世紀は渇いている）』に助監督として参加しました。

1961年、ブーシェは初の本格的な短編映画『Fleurs de feu（火の花）』を監督します。ジャック・ラカリエールの小説を原作とし、ミシェル・サンドレが音楽を担当しました。その後も、1963年に『Liberté de la nuit（夜の自由）』、1964年に『Le Temps d'une nuit（ある夜の時間）』といった短編映画を制作しました。

『Le Temps d'une nuit（ある夜の時間）』は、後の『うたかたの日々』（1968年）で撮影監督を務めるジャン＝ジャック・ロシュが撮影を担当し、ジェラール・ダリュー、コレット・マニーなどが出演しています。音楽には、ジャズサックス奏者のギイ・ラフィットや、マルシャル・ソラルといった豪華なメンバーが参加しています。

テレビドキュメンタリーの世界へ

1970年代からは、テレビドキュメンタリーの分野で活躍します。レジスタンス運動に参加した女性民族学者ジェルメーヌ・ティヨンに取材した『Un certain regard: Germaine Tillion』や、ジュール・ヴェルヌに関するドキュメンタリー『Les Voyages de Monsieur Verne』などを監督しました。また、数学者ルネ・トムへのインタビューを基にした『René Thom ou la théorie des catastrophes（ルネ・トムあるいはカタストロフ理論）』も制作しました。

その後の活動と評価

1980年代以降、ブーシェは主にテレビプロデューサーとして活動していたようですが、その足跡は断片的であり、エリック・ロメールの回想にその名が登場する程度です。日本で公開された作品は、編集技師として参加したジョゼ・ベナゼラフ監督の『湖のもだえ』のみです。

フランシス・ブーシェは、ヌーヴェルヴァーグ前夜から初期にかけて、重要な役割を果たした知られざる人物です。彼の作品は、映画史における貴重な足跡であり、その才能はもっと評価されるべきでしょう。

フィルモグラフィー

1958年：Le Siècle a soif（世紀は渇いている） - 助監督
1961年：Fleurs de feu（火の花） - 監督
1963年：湖のもだえ - 編集
1963年：Liberté de la nuit（夜の自由） - 監督
1964年：Le Temps d'une nuit（ある夜の時間） - 監督・脚本
1965年：Aquarelle - 編集
197年：René Thom ou la théorie des catastrophes - 監督
1974年：Un certain regard: Germaine Tillion - 監督
1978年：Les Voyages de Monsieur Verne - 監督

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