フランシス・ベーコン (芸術家)

フランシス・ベーコン：叫びと歪みの人生と芸術

フランシス・ベーコン（1909-1992）は、20世紀を代表するイギリスの画家の一人です。第二次世界大戦後の抽象絵画全盛期において、具象絵画にこだわり続け、現代美術に多大な影響を与えました。彼の作品は、激しくデフォルメされた人体像、特に大きな口を開けて叫ぶ人間の姿が特徴的です。これらの作品からは、人間の存在における不安や苦悩が強烈に伝わってきます。

ベーコンの絵画に用いられているモチーフは多岐に渡ります。叫ぶ人間の姿は、歯の多数写っている写真集や、映画『戦艦ポチョムキン』の老女の場面からの着想と言われています。さらに、ベラスケスの『教皇インノケンティウス10世の肖像』など、過去の著名な作品も彼の創作に影響を与えていることが知られています。

波瀾万丈の人生

アイルランドのダブリンに生まれたベーコンは、幼少期から喘息を患い、正規の学校教育を受けることはありませんでした。17歳の頃には、家庭での出来事から勘当されています。美術学校で学んだわけではありませんが、1920年代後半から絵画制作を始め、ロンドンで家具デザインや室内装飾の仕事も経験しました。彼は公然とゲイであることを表明しており、当時のイギリス社会におけるLGBTへの偏見の中で生きていました。

1930年代後半から1940年代にかけて、多くの作品を自ら破棄した時期もありましたが、1940年代後半からは精力的に作品制作を再開します。1945年の『キリスト磔刑図のための3つの習作』や、1949年から制作された「頭部」シリーズなどが、彼のキャリアにおける重要な転換点となりました。1950年代以降は、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで教鞭をとり、後進の育成にも貢献しました。ヴェネツィア・ビエンナーレへの参加などを通じて、彼の芸術は国際的な評価を得ていきました。

ベーコンは、生涯を通して数人の男性と恋に落ちましたが、結婚には至りませんでした。最後の恋人であったスペイン人のホセ・カペッロとの関係は、彼の最期と深く関わっています。

謎の死とバリー・ジュール

ベーコンは1992年、スペインのマドリードで心臓発作で急死しました。彼の死の直前には、ホセに会うためにスペインへ渡航していましたが、実際に会えたかどうかは不明です。彼の死には、親友であったバリー・ジュールとの関係が深く関わっていると考えられています。ジュールは、ベーコンの死の数日前に、彼の作品を大量に預かっており、そのコレクションは「バリー・ジュール・コレクション」として知られるようになりました。ベーコンがジュールに作品を託した真意は謎に包まれたままです。

ベーコンの芸術的遺産

フランシス・ベーコンの芸術は、その激しさ、歪み、そして人間の深層心理をえぐるような表現力によって特徴づけられます。彼は、具象絵画に固執しながらも、現代美術に斬新な表現方法をもたらし、後世の多くのアーティストに多大な影響を与えました。彼の作品は、いまだに世界中で高い評価を得ており、20世紀美術史において重要な位置を占めています。彼の生きた時代、社会状況、そして彼自身の内面世界が複雑に絡み合った、その表現方法はこれからも多くの人々を魅了し続けるでしょう。

参考文献

『フランシス・ベイコン 対談』　ミシェル・アルシャンボー 著、五十嵐賢一 訳 （三元社　1998年）
『感覚の論理―画家フランシス・ベーコン論』　ジル・ドゥルーズ 著、山縣煕 訳 （法政大学出版局 2004年）
『特集 20世紀のカリスマ　フランシス・ベーコンを解剖する』 芸術新潮2013年4月号
『わが友　フランシス・ベイコン』　ジョン・ラッセル 著、五十嵐賢一 訳 （三元社　2013年）

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