フルングニル

フルングニル：北欧神話における巨人の英雄

フルングニル（古ノルド語: Hrungnir）は、北欧神話に登場する、並外れた力を持つ巨人です。彼の名は、特に雷神トールとの壮絶な戦いの物語で広く知られています。

ヴァルハラへの侵入とトールとの対決

物語は、フルングニルがオーディンの愛馬スレイプニルとの競走に挑む場面から始まります。自慢の駿馬グルファクシ（「金のたてがみ」の意）を駆り、スレイプニルに匹敵する速さを見せつけますが、その勢いのまま、神々の住むヴァルハラ宮へと乗り込んでしまいます。

オーディンはフルングニルを客人として迎え入れますが、彼はフレイヤの酌で大量の酒を飲み、酔って傲慢な態度を取り始めます。その様子に激怒したトールが現れ、フルングニルを打ち倒そうとします。しかし、フルングニルは武器を持っていなかったため、トールに決闘を申し込み、後日、アースガルズとヨトゥンヘイムの境界にあるグリョートゥーナガルザルで決着をつけることになります。

決戦の準備とモックルカールヴィの創造

巨人たちはフルングニルの敗北を恐れ、グリョートゥーナガルザルに巨大な粘土人形モックルカールヴィを作りました。しかし、モックルカールヴィの心臓には牝馬の心臓が使われたため、トールが現れると恐怖で震え上がってしまいます。

フルングニル自身は、石でできた頭と三角形の砥石でできた心臓を持っており、決闘の際には砥石を武器として構え、盾を大地に置いて身を守ろうとしました。

トールとの激闘とフルングニルの最期

トールがミョルニルの槌を、フルングニルが砥石を互いに投げ合うと、ミョルニルは空中で砥石と激突し、砥石を破壊しながらフルングニルの頭蓋骨を打ち砕きました。フルングニルは倒れ、トールは下敷きになって動けなくなってしまいます。そこに、生後3日目のトールの息子マグニが現れ、父を助け出しました。トールはマグニの勇気を称え、褒美としてグルファクシを与えました。

フルングニルの死後、破壊された砥石の破片は各地に散らばり、砥石の採石場になったと伝えられています。また、トールの頭に食い込んだ砥石の欠片を取り除くために、巫女グローアが呼ばれたという逸話も残っています。

北欧文化におけるフルングニルの影響

フルングニルの物語は、詩人ショーゾールヴルの楯に描かれ、その物語を伝える詩が刻まれています。『古エッダ』にも、フルングニルの強さや、彼を倒したトールの武勇を称える記述が見られます。

トールは、フルングニルとの戦いを経て、さらに強大な存在として描かれるようになります。また、フルングニルは、トールに対するケニング（間接的な表現）として用いられることもあり、彼の名は、北欧神話におけるトールの偉業を語る上で欠かせないものとなっています。

フルングニルの物語は、単なる巨人との戦いにとどまらず、神々の世界における力の均衡や、英雄の成長を描いた重要な要素として、北欧文化に深く根付いているのです。

もう一度検索