ケニング

ケニング：北欧詩を彩る比喩表現

ケニングとは、古ノルド語やアイスランド語の詩において、具体的な名詞の代わりに、比喩的な複合語を用いる修辞技法です。この手法は、アイスランドの詩（リームルなど）に深く根付いており、ヘイティという関連技法と共に、長年に渡りその特徴的な要素として存在しました。近年では、古[[英語]]に見られる同様の表現もケニングと呼ばれるようになっています。

ケニングの構造

ケニングは、基本となる名詞である「基底語」と、その意味を補足・修飾する「決定素」の2つの部分から構成されます。例えば、「剣」を表すケニングとして「赤い盾のつらら（íss rauðra randa）」があります。この場合、「つらら（iss）」が基底語、「盾（rǫnd）」が決定素です。ケニングが指し示す対象（剣など）は「指示物」と呼ばれます。

ケニングの構成要素は、名詞だけでなく、詩的な語彙である「ヘイティ」を用いることもあります。「船」を表すケニングでは、散文では「馬（hestr）」となる部分を、詩的な表現「海馬（gjálfr-marr）」や「波の馬（báru fákr）」といった形で表現しています。決定素は、基底語に直接結合する複合語の形や、属格を取って基底語の前後を修飾する属格句の形をとります。属格句の場合、基底語と決定素の間に他の単語が入り込むこともあります。

複雑なケニング

熟練した詩人（スカルド）は、基底語や決定素自体を別のケニングで表現するなど、非常に複雑なケニングを作り出しました。これを「二重ケニング（tvíkent）」と呼びます。「戦カモメに餌をやるもの」というケニングでは、「戦カモメ」自体がワタリガラスを意味するケニングであり、結果的に「ワタリガラスに餌をやるもの＝戦士」という意味になります。

さらに、3つ以上の要素からなるケニングは「拡張（rekit）」と呼ばれ、スノッリ・ストゥルルソンは5要素までのケニングを許容する一方、それ以上のものは戒めています。しかし、スカルド詩の中には、7要素にも及ぶケニングも存在しています。

ケニングの語順と理解

古ノルド語は、語順が比較的自由な総合言語です。スカルド詩ではこの自由度を最大限に活かし、散文では不自然と感じるような表現を用いることもあります。ケニングにおいても、構成要素の間に他の単語がはさまったり、複数のケニングが混在したりすることがあります。しかし、古ノルド語の豊富な形態論的要素のおかげで、曖昧さは現代英語に比べて少ないと言われています。また、ケニングは慣習的な傾向が強く、指示物や表現は限られた範囲内に収まっていることが多いです。

ケニングの定義

ケニングの定義については、2要素以上の名詞代替法を広く指すとする見解と、隠喩的な表現、特に基底語と修飾語句の意味関係のみで指示物を指すものに限定する見解があります。形容詞句は世界中で広く使われる一般的な修辞技法ですが、狭義のケニングは古ノルド語と古[[英語]]に特有なものです。スノッリ・ストゥルルソンは、2語以上の回りくどい表現による人や物の暗示全般をケニングと捉えていたようです。

ケニングの語義論

ケニングは、鮮烈な比喩表現を生み出すことがあります。スノッリはこれを「新奇な創造（nýgerving）」と呼びました。しかし、単なる装飾的なケニングの濫用も批判しており、これは「誇張（nykrat）」あるいは「過ち（löstr）」と呼ばれていました。ケニングの中には、同じものを指すケニングが含まれる冗長な表現も見られます。

ケニングには、平易なものから神話や伝説の知識を前提としたものまであります。例えば、「空」は「大雨の桶」と表現されることもあれば、「ユミルの頭蓋」と呼ばれることもあります。後者は、ユミルの頭蓋骨から空が作られたという神話に基づいています。キリスト教のテーマを扱う際にも、伝統的なケニングに神話や貴族的な添え名を組み合わせる手法が用いられました。

ケニングの省略

よく知られたケニングの一部が省略されることもあります。これは、聞き手が元のフレーズを理解しており、省略しても意味が通じると判断された場合に用いられる手法です。

古[[英語]]におけるケニング

ケニングはゲルマン語全体に共通する技法と考えるのが一般的ですが、古ノルド語と古[[英語]]の詩以外ではほとんど見られないため、異論もあります。古[[英語]]のケニングは、主に2要素からなる単純な形式です。古[[英語]]詩では、ケニングと指示物が並置されることもあります。

現代におけるケニング

ケニングに似た修辞技法は現代でも見られます。ジョン・スタインベックやシェイマス・ヒーニーなどの作家が、自身の作品の中でケニング様式を用いています。ドイツ語では、複合語の生成が一般的であるため、ケニング的な単語が数多く存在します。

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