フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ

ドビュッシー：フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ

クロード・ドビュッシー作曲による《フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ》（Sonate pour flûte, alto et harpe）は、その独特の編成と、作曲家が晩年に到達した円熟した表現が結びついた室内楽の傑作として広く認識されています。

作曲に至る背景

このソナタは、ドビュッシーが第一次世界大戦中に、そして自身の病（癌）と闘いながら取り組んだ「様々な楽器のための6つのソナタ」（six sonates pour divers instruments）と題された計画の一部として生まれました。この計画は、古典派以前の音楽における6曲1組の形式への回帰を意識したものとされています。構想された6曲は以下の通りです。

チェロとピアノのためのソナタ（1915年）
フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ（1915年）
ヴァイオリンとピアノのためのソナタ（1917年）
オーボエ、ホルンとクラヴサンのためのソナタ
トランペット、クラリネット、バスーンとピアノのためのソナタ
コントラバスと各種楽器のためのコンセール形式のソナタ

しかし、ドビュッシーはヴァイオリンとピアノのためのソナタを完成させた翌年に世を去り、残りの3曲は残念ながら構想のみに終わりました。本作は、チェロソナタと並んで、この計画の初期に完成を見た作品の一つです。1915年の9月から10月という比較的短い期間で作曲されたこのソナタは、完成された他の2曲と共に、ドビュッシーの室内楽曲における極めて重要な位置を占めています。

興味深いのは、このソナタの編成が当初は完全には定まっていなかった可能性です。ドビュッシーが1915年9月16日付で出版社のジャック・デュランに宛てた手紙には、「フルート、オーボエ、ハープのためのソナタのスケッチを昨晩書き終えた」という記述が見られます。これは、当初はヴィオラの代わりにオーボエを想定していたことを示唆しています。さらに、その手紙の追伸には、「他のソナタは3つの楽器で：フルート、ヴィオラ、ハープ、またはヴァイオリン、イングリッシュホルン、ピアノ？」とも記されており、編成について複数の選択肢を検討していた様子がうかがえます。最終的にフルート、ヴィオラ、ハープという他に類を見ない組み合わせに落ち着いたことは、結果としてこの作品に独自の音色世界をもたらしました。

初演

作品は1917年4月21日、パリにて初演されました。

楽曲の構成

このソナタの最大の魅力の一つは、フルート、ヴィオラ、ハープという楽器の組み合わせから生まれる音色のパレットにあります。フルートとハープが持つ透き通るような、あるいは幻想的な響きと、ヴィオラの温かく、やや肉感的な音色が対比されつつ溶け合い、静寂を基調とした精妙な響きを生み出しています。ヴィオラの存在が、フルートとハープだけでは得られにくい深みや表情を与えています。

楽曲は3つの楽章で構成されています。

1. 第1楽章 牧歌 (Pastorale)
不可思議な雰囲気を湛えたハープの和音と、やはり調性が曖昧なフルートの響きに続いて開始されます。その後、ヴィオラが高音域で歌う旋律が現れますが、これは牧童が吹くオーボエを思わせるような、どことなく田園的な響きを持っています。このヴィオラの旋律に、当初の構想にあったオーボエ編成の名残が感じられるという指摘もあります。楽章は変ロ長調を経て、最終的にヘ長調に落ち着きます。

2. 第2楽章 間奏曲 (Interlude)
中間楽章にあたり、前後の楽章を繋ぐ役割を果たします。

3. 第3楽章 終曲 (Finale)
ソナタを締めくくる楽章です。

同一編成によるその他の作品

フルート、ヴィオラ、ハープという編成は比較的珍しいものですが、ドビュッシーのこのソナタ以降、この組み合わせによる作品がいくつか作曲されています。

アーノルド・バックス：《悲歌の三重奏曲》（1916年）
アンドレ・ジョリヴェ：小組曲（1942年）
ジャン＝ミシェル・ダマーズ：三重奏曲（1946年）
ソフィア・グバイドゥーリナ：《喜びと悲しみの園》（1988年）
武満徹：《そして、それが風であることを知った》（1992年）

これらの作品は、ドビュッシーが切り開いたこの編成の新たな可能性を探求しています。

主な録音

このソナタは多くの著名な演奏家によって録音されており、様々な解釈で楽しむことができます。例えば、以下のような録音が挙げられます。

[ジェームズ・ゴールウェイ]、グラハム・オッペンハイマー(Va)、マリーサ・ロブレス(Hp)
オーレル・ニコレ(Fl)、セルジュ・コロー(Va)、[篠崎史子]
ジャン＝ピエール・ランパル（Fl）、ブルーノ・パスキエ（Va）、リリー・ラスキーヌ（Hp） - エラート盤（1966年）
* 工藤重典（Fl）、ジェラール・コセ（Va)、マリエル・ノールマン(Hp)

ドビュッシー晩年の澄み切った響きと深い内省を感じさせるこのソナタは、今日でも多くの聴衆に愛され続けています。

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