フレデリック・ウィリアム・バートン

フレデリック・ウィリアム・バートン（Sir Frederic William Burton、1816年4月8日 - 1900年3月16日）は、19世紀に活躍したアイルランドの画家であり、後にロンドンのナショナル・ギャラリーの館長を務めた人物です。

バートンは、アイルランド北部のウィックロー県に生まれましたが、6歳の時に家族と共にクレア県へと移りました。彼の父はアマチュア画家であり、幼い頃から絵画に親しむ環境で育ちました。父の支援もあり、バートンはダブリンで美術を学び始め、1826年には風景画家サミュエル・ブロッカスの弟子となりました。ここで彼は基礎的な画力を磨き、21歳になった1837年にはアイルランドの王立ハイバーニアン・アカデミーに入会、1839年には正会員に選出されました。

1840年には、王立ハイバーニアン・アカデミーの展覧会に人物画を出展し、その才能を広く知られるようになります。1842年には活動の拠点をロンドンに移し、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの展覧会にも作品を出展するようになりました。その後、1851年にはドイツのバイエルンに長期滞在し、ヨーロッパ各地を訪れながら自身の芸術観を深めていきました。1855年には王立水彩画協会の準会員、翌年には正会員となり、水彩画家としても高い評価を得ました。

1860年代に入ると、バートンは「ラファエル前派」のスタイルに影響を受けた作品を描くようになります。彼は歴史的なテーマや人物画、肖像画を油彩と水彩の両方で制作しました。中でも最も有名な作品は、友人の学者ホイットリー・ストークスによって紹介された中世デンマークの物語を題材にした『ヘレリルとヒルデブランド、らせん階段の逢引』（1864年）です。この作品は、バートンの洗練された画力と物語性を表現した代表作として知られています。

1874年、バートンはウィリアム・ボクソールの後任として、ロンドンのナショナル・ギャラリーの館長に任命されました。彼は20年もの間、その職務を全うし、その間にナショナル・ギャラリーが数々の重要な美術品を取得するのに貢献しました。特にレオナルド・ダ・ヴィンチの「岩窟の聖母」やアンソニー・ヴァン・ダイクの「チャールズ1世騎馬像」などの名作の獲得に尽力したことは特筆に値します。1884年には、その功績が認められナイトの称号を授与されました。

バートンは1900年にロンドンで亡くなり、彼の遺体はダブリンに埋葬されました。彼の芸術的遺産は、今日においても多くの人々に愛され続けています。

作品

バートンの作品は、その精緻な描写と感情豊かな表現が特徴です。彼は肖像画や人物画において、単に外見を写し取るだけでなく、人物の内面や物語性を表現することに注力しました。彼の作品は、歴史的な出来事や文学作品に触発されたものが多く、観る者に深い感動を与えます。特に水彩画においては、その透明感のある色彩と繊細な筆致が際立っており、油彩画とは異なる魅力を持っています。

バートンの代表作をいくつか紹介します。

ヘレリルとヒルデブランド、らせん階段の逢引：中世のデンマークの物語を題材にした水彩画。階段で密かに会う男女の姿を描き、ロマンチックで劇的な雰囲気を持っています。
盲目の娘：感情豊かな表情と繊細な描写で知られる肖像画。モデルの内面を深く掘り下げています。
アラビアの少年：異国情緒あふれる少年を描いた水彩画。民族衣装や表情の描写が印象的です。

バートンの影響

バートンの活動は、画家としてだけでなく、ナショナル・ギャラリーの館長としての功績も非常に大きく、後世の美術界に多大な影響を与えました。彼が館長時代に収集した作品は、今もなおナショナル・ギャラリーのコレクションの中核をなしており、世界中の人々がその恩恵を受けています。また、彼自身の芸術作品も、ラファエル前派の影響を受けつつも独自のスタイルを確立しており、19世紀のアイルランド美術を代表する画家の一人として評価されています。

参考文献

Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Burton, Sir Frederick William". Encyclopædia Britannica. Vol. 4 (11th ed.). Cambridge University Press. p. 863.

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