ブニヤウイルス目

ブニヤウイルス目（Order Bunyavirales）

ブニヤウイルス目とは、ウイルスの分類体系において設けられている一つの大きなグループです。この目には、多様な特徴を持つウイルスが含まれていますが、共通するいくつかの性質を持っています。

ウイルスの特徴

ブニヤウイルス目に属するウイルス粒子は、直径がおよそ92から105ナノメートル程度の球形または多形性の構造をしています。ビリオンの外側はエンベロープと呼ばれる脂質二重膜に覆われています。このエンベロープは、ウイルスが感染した宿主細胞の膜に由来します。

ウイルスの遺伝情報は、リボ核酸（RNA）として格納されています。特に、ブニヤウイルス目のゲノムは、通常3つの異なるRNA分子からなる「分節型ゲノム」であることが特徴です。これらのRNAはほとんどがマイナス鎖RNAとして存在しますが、フレボウイルス属やトスポウイルス属など、一部の属ではプラス鎖RNAとして機能する部分も含まれます。

ウイルスは感染した細胞の細胞質内で増殖します。また、ブニヤウイルス目のウイルスの多くは、ダニや蚊、ウンカといった節足動物を介して媒介される、いわゆるアルボウイルス（Arbovirus）の一種です。これらのウイルスは、媒介となる節足動物の体内でも増殖することができます。

多様な宿主と病原性

この目に属するウイルスは、非常に幅広い宿主を持つことが知られています。その中でも、トスポウイルス属やテヌイウイルス属は植物に感染する植物ウイルスですが、それ以外の多くの属に属するウイルスは、ヒトや家畜などの動物に感染し、しばしば重篤な病気を引き起こす病原体となります。

人獣共通感染症としては、以下のようなものが代表的です。

クリミア・コンゴ出血熱：ナイロウイルス科に属するウイルスによって引き起こされ、主にマダニによって媒介されます。ヒトに感染すると重篤な出血熱を引き起こし、致死率が高いことで知られています。
ハンタウイルス感染症：ハンタウイルス科に属するウイルスによって引き起こされます。ネズミなどのげっ歯類が媒介動物となり、ヒトには排泄物などを介して感染します。腎症候性出血熱やハンタウイルス肺症候群など、重症化すると命に関わる病気を発症することがあります。
重症熱性血小板減少症候群（SFTS）：フェヌイウイルス科に属する新種のウイルス（ダビーバンドウイルス）によって引き起こされます。マダニ媒介性の感染症で、日本国内でも報告があり、発熱や消化器症状、血小板減少などを特徴とし、重症化すると致死率が高い疾患です。
リフトバレー熱：フェヌイウイルス科のウイルスによって引き起こされる、主に蚊によって媒介される感染症です。家畜に流産などを引き起こし、ヒトにも感染して発熱や肝炎、重症例では出血熱や脳炎を起こすことがあります。

家畜に特有の病気としては、ペリブニヤウイルス科のアカバネウイルスによるアカバネ病（牛、羊、山羊の奇形・流産）などがあります。

植物ウイルスとしては、フェヌイウイルス科のイネ縞葉枯病ウイルス（ウンカ媒介）や、トスポウイルス科のトマト黄化えそウイルス（アザミウマ媒介）などがあり、農業上重要な病害の原因となっています。

分類と歴史

ブニヤウイルス目は比較的新しい分類群です。かつては「ブニヤウイルス科（Bunyaviridae）」としてまとめられていましたが、ウイルスの遺伝子情報や系統解析が進んだ結果、その多様性からより上位の分類である「目」に昇格されることになりました。国際ウイルス分類委員会（ICTV）は、2017年にこの変更を正式に承認しました。

2019年時点の分類では、ブニヤウイルス目には12の科、4つの亜科、48の属、そして383の種が属しており、非常に多様なウイルスが含まれていることがわかります。代表的な科としては、前述のナイロウイルス科、ハンタウイルス科、フェヌイウイルス科、ペリブニヤウイルス科のほか、アレナウイルス科、トスポウイルス科などがあります。

名前の由来

「ブニヤウイルス（Bunya virus）」という名前は、最初にこのウイルス群の一つが分離された場所である、ウガンダのブニャムウェラ（Bunyamwera）という地名に由来しています。

まとめ

ブニヤウイルス目は、その多くのメンバーが節足動物によって媒介され、ヒト、家畜、そして植物に多様な病気を引き起こす重要なウイルス群です。その中には、クリミア・コンゴ出血熱や重症熱性血小板減少症候群（SFTS）のように、ヒトに重篤な疾患をもたらす病原体が含まれており、公衆衛生上および獣医学上、そして農学上も注目すべき存在と言えます。遺伝子解析技術の発展により、この目のウイルスの多様性や進化、病原性に関する理解が深まっていますが、未知のウイルスや新たな病原体の出現の可能性も常にあり、継続的な研究と監視が重要です。

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