ブラウントラウト

ブラウントラウト：多様な生態と人間との関わり

ブラウントラウト(Salmo trutta)は、サケ目サケ科に属する魚類です。河川を主な生息域とする河川型、湖沼を生活圏とする降湖型、そして海と川を回遊する降海型（シートラウト）の3つの生態型が存在し、それぞれ異なる生活様式を示します。その見た目からブラウンマス、茶マス、茶色マスなどとも呼ばれています。学名の種小名truttaは、ラテン語でマスを意味する言葉に由来しています。

生態的多様性

河川型は、主に清流や河川の上流域に生息し、高山の小川から大きな河川まで幅広い水域に適応します。一方、降湖型は湖沼を主な生活圏とし、産卵期には川を遡上します。降海型は、海で生活し、産卵のために生まれた川へ回帰します。同じ河川に生息していても、産卵のために川を遡上する個体群としない個体群では、遺伝的な違いが見られます。興味深いことに、生息環境が変わると、河川型が降海型へと変化することもあります。

ブラウントラウトは、一般的にヨーロッパとアジアに分布すると考えられていますが、実際には極地付近まで広く分布しており、ギリシャやエストニアなど、海から遠く離れた淡水域のみで生活する個体群も存在します。絶滅危惧種に指定されているわけではありませんが、生息地の破壊や乱獲によって、個体数が減少している地域も存在します。河川型は、水温15.5～18.3℃程度の、冷たく酸素が豊富な水を好みます。

生活史と成長

ブラウントラウトのサイズは生息域によって大きく異なり、20kgを超えるものから1kg以下のものまで様々です。国際ゲームフィッシュ協会(IGFA)の記録では、18.25kgの個体が記録されています。

多くの地域で環境への適応力が高く、個体や個体群によって生態が変化することが知られています。成熟までの期間は、オスが1～2年、メスが2～3年とされ、寿命は5～8年です。マスノスケやギンザケのように、淡水で1年間生活した後、スモルト化して降海する個体もいますが、寒冷地ではさらに1～2年淡水で生活するケースも報告されています。

産卵期は冬（11～2月）で、孵化した稚魚は春（4～5月）に浮上します。その後は淡水で生活し、成長は1歳で約10cm、2歳で約20cm、3歳で25～30cm程度になります。1歳魚以降の生活史は、終生河川残留（回遊範囲が狭い/広い）、降湖型、降海型の4種類に分類されます。降海型の一部は未成熟のまま河川を遡上し、越冬する個体もいます。海を回遊する個体は、淡水に生息するものよりサイズが大きく、寿命も長くなります。

ブラウントラウトは昼夜を問わず活動し、常に摂餌します。餌は淡水では川底の無脊椎動物、小魚、カエル、昆虫など、海では様々な生物を食べます。魚食性は、従来は30cmを超えると強まると考えられていましたが、20cmを超える頃から強い魚食性を示すことが明らかになっています。

産卵様式はタイセイヨウサケに似ており、メス1kgあたり平均2000個の卵を産みます。日本においては、イワナとの自然交雑が確認されており、ニジ[[マス]]やイワナとの人為的な交雑も行われています。

食用としての価値

ブラウントラウトは、ニジ[[マス]]と比較してやや癖のある味わいといわれますが、食用としても人気があります。刺身や寿司ネタなどの生食、燻製、フライ、グリル、オーブン焼きなど、様々な調理法で楽しむことができます。

日本における回遊と外来種問題

日本への移入は1892年、カワマスの卵に混入したものが始まりとされています。日本では、公的機関による移植放流だけでなく、養殖場からの逸出や個人の放流なども行われており、在来のサケ科魚類との交雑、餌生物への影響、生息域の競合などが懸念されています。北海道千歳川支流では、自然繁殖し、在来種のアメマスを上流域に追いやっている事例も報告されています。また、ヤツメウナギやニホンザリガニなどの捕食も確認されています。

(財)河川環境管理財団らの調査では、成長の良い個体は0歳魚の春にスモルト化して降海しますが、多くは1歳魚の3～6月に降海することがわかりました。耳石分析の結果、降海履歴のある個体とない個体が確認されましたが、降海個体が別の河川に遡上しているか、自然繁殖しているかは確認できませんでした。

人工繁殖と保全

ブラウントラウトは、釣り目的や養殖のために、世界各地に導入されています。オーストラリアや北海道などでは、地域の生態系に悪影響を与えているため、問題となっています。一方、食品としての需要も高く、大量に人工孵化されていますが、閉鎖的な環境では、天然個体群が絶滅している地域もあります。また、養殖場のサケやマスに寄生するウオジラミの感染も、個体数減少の一因となっています。

ブラウントラウトは、その生態的多様性と人間との関わりから、生態系保全や資源管理において重要な研究対象となっています。今後の研究により、より詳細な生態解明や適切な保全策が期待されます。

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