ブラックプリンス歩兵戦車

ブラックプリンス歩兵戦車：チャーチルを凌駕した重装甲の巨兵

第二次世界大戦中、イギリス軍は歩兵支援を目的とした重装甲戦車、ブラックプリンス歩兵戦車の開発に着手しました。本車は、既に実戦投入されていたチャーチル歩兵戦車をベースに、車体の大型化と火力の向上を図った改良型と言えるでしょう。その名の通り、14世紀イングランドの英雄、エドワード黒太子にちなんで命名されています。

チャーチル歩兵戦車の進化

ブラックプリンスの開発は、イギリス軍が歩兵支援に特化した戦車の必要性を認識していたことに端を発します。既存のチャーチル歩兵戦車は重装甲でしたが、火力面では限界がありました。そこで、より強力な火器を搭載した新型戦車の開発が急務となりました。ブラックプリンスは、この課題解決を目指して開発された、いわばチャーチル戦車の強化発展型です。

強大な火力と巨体

ブラックプリンス最大の特徴は、オードナンスQF 17ポンド砲（口径76mm）の搭載です。この大口径砲は、当時の戦車砲としては強力な貫通力を誇り、敵戦車への有効な攻撃手段となりました。しかし、この強力な火砲を搭載するために車体の大型化が不可避となり、全長はチャーチルの7.44mから8.81mに、全幅も2.74mから3.44mへと拡大されました。重量も約50トンと、チャーチルと比較して10トン増加しています。この巨体ゆえに、ブラックプリンスはチャーチルよりも低い全高（2.7m）を実現するために、設計に工夫が凝らされています。また、重量増に対応するため、履帯幅の拡大や足回り（転輪）の改良も行われました。

機動性と開発の終焉

ブラックプリンスは強力な火力を有していましたが、その巨体ゆえに機動性に劣るという欠点がありました。一方、イギリス軍は並行して、機動性に優れた巡航戦車の開発も進めていました。巡航戦車系列はクロムウェルやチャレンジャーといった戦車へと発展し、最終的には17ポンド砲を搭載したコメット巡航戦車へと進化しました。コメットはブラックプリンスよりもはるかに高い機動性を誇り、当時の戦車戦において大きなアドバンテージとなりました。

ブラックプリンスの開発は、より機動性に優れたセンチュリオン主力戦車の開発と並行して行われていましたが、最終的にはセンチュリオンの方が有望視されました。センチュリオンは実戦配備に向けた試験のためにドイツへ送られる一方、ブラックプリンスはわずか6輌の試作車が完成したのみで、1945年5月30日に開発は中止されました。この決定により、チャーチル歩兵戦車の改良計画も終了し、歩兵戦車の概念自体も終焉を迎えました。

ブラックプリンスのその後

開発中止となったブラックプリンスですが、その歴史的価値は高く評価されています。現在、イギリスのボービントン戦車博物館に1輌が保存・展示され、多くの人々がその勇姿を目にしています。さらに、ブラックプリンスは様々なメディアにも登場しており、『ガールズ＆パンツァー リトルアーミー2』や『War Thunder』、『World of Tanks』、『トータル・タンク・シミュレーター』といったゲーム作品にその姿を見ることができます。

ブラックプリンス：歩兵戦車の終焉と主力戦車の夜明け

ブラックプリンスは、その強力な火力と重装甲によって、当時の戦車戦に大きな影響を与えたと言えるでしょう。しかし、同時にその巨体と機動性の低さが、開発中止という結末を招いた一面も事実です。ブラックプリンスの開発の歴史は、第二次世界大戦における戦車開発の変遷、そして歩兵戦車から主力戦車への移行という大きな転換期を象徴的に示していると言えるのではないでしょうか。 その存在は、戦車史において重要な位置を占めていると言えるでしょう。

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