ブラデリン祭壇画

ブラデリン祭壇画：ロヒール・ファン・デル・ウェイデンの傑作

『ブラデリン祭壇画』、または『ミッデルブルク祭壇画』として知られるこの三連祭壇画は、初期フランドル派の巨匠ロヒール・ファン・デル・ウェイデンが晩年の1450年頃に制作した油彩作品です。イエス・キリストの誕生を主題とし、ウェイデンの作品の中でも降誕場面を描いた唯一の作品として貴重です。この祭壇画は、フランドルのミッデルブルフの設立者ピーテル・ブラデリンによって、1460年に新教会に寄進されたとされています。

作品構成

祭壇画は三つのパネルで構成されています。

中央パネル：イエス・キリストの降誕場面を描いています。ベツレヘムの厩で、聖母マリアと幼子イエスが家畜や天使と共に描かれています。構図はウェイデンの師であるロベルト・カンピンの作品に影響を受けていますが、厩は朽ちかけたロマネスク様式の建物で表現され、古い世界とイエスの誕生による新しい世界の到来を象徴しています。また、この建物に見られる斜めの視点は、ウェイデンの作品の特徴です。跪いて幼子イエスを礼拝する3人の大人、聖母マリア、聖ヨセフ、そして寄進者と思われる人物が描かれています。

左翼パネル：ローマ皇帝アウグストゥスが、ティブルのシビュラに自分が地上で最も偉大な男であるかを尋ねる場面が描かれています。シビュラはアウグストゥスに聖母子の幻影を見せ、それによって彼はローマに「神の最初の子」に捧げられた祭壇を建てたとされています。アウグストゥスは跪き、聖母子の幻影を見つめています。

右翼パネル：東方の三博士が、贈り物を持ってベツレヘムに到着した場面が描かれています。彼らは中央パネルに向き、幼子イエスの幻影を見ています。

祭壇画の両翼パネルは、通常は閉じられており、内側の絵は覆い隠されています。外側には、グリザイユで描かれた「受胎告知」の場面があります。これは、聖母マリアと大天使ガブリエルが描かれています。

象徴性と解釈

この祭壇画には、様々な象徴的な要素が含まれています。

朽ちかけた厩：古い世界、そしてイエスの誕生による新しい世界の到来を象徴しています。
聖ヨセフの蝋燭：現世の光は、イエスの光には及ばないことを示しています。
アウグストゥスの幻影：聖母子の出現と、キリスト教の優位性を表しています。
四つの告知場面：祭壇画全体で四つの告知の場面（マリアへの告知、アウグストゥスへの告知、三博士への告知、羊飼いへの告知）が描かれており、イエスの誕生の重要性を強調しています。

委嘱者と寄進者

この祭壇画は、フィリップ善良公の財務官であったピーテル・ブラデリンが、ミッデルブルフの教会の祭壇画として寄進したと考えられています。しかし、祭壇画に描かれているのはブラデリン一人のみであり、通常描かれる妻の姿が見られないため、委嘱者について疑問も呈されています。また、中央パネルの背景に描かれている城は、ミッデルブルフの城をモデルにしていると言われています。

所蔵

現在、『ブラデリン祭壇画』はベルリン絵画館に所蔵されており、ロヒール・ファン・デル・ウェイデンの代表作の一つとして高く評価されています。その複雑な構成、象徴的な意味、そして美しい色彩は、多くの人々を魅了し続けています。

参考文献

有川治男・重延浩・高草茂編集『NHK ベルリン美術館1 ヨーロッパ美術の精華』、角川書店、1993年
* Shirley Neilsen Blum, Early Netherlandish Triptychs, University of California Press, 1969

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