ブラフモ・サマージ

ブラフモ・サマージ：インド近代化の原動力

1828年、ラーム・モーハン・ローイによって創設されたブラフモ・サマージは、単なる宗教団体ではなく、19世紀インドにおける近代化と伝統復興を牽引した社会運動でもありました。ベンガル・ルネッサンスの中核を担い、アーリヤ・サマージなどの後続のヒンドゥー教改革運動にも大きな影響を与えたのです。

ローイの理想：普遍的真理の探求

創設者ローイは、イスラム教、キリスト教、そして古代インドのウパニシャッドに共通する普遍的な真理の存在を確信していました。古代インドの純粋なヒンドゥー教の復興を理想とし、キリスト教ユニテリアン主義とも深く関わりました。西洋の秘教や心霊主義思想も取り入れつつ、独自の宗教観を構築していったのです。しかし、1833年にイギリスで死去。その後、ローイの支援者であったデーベンドラナート・タゴール（詩聖ラビンドラナート・タゴールの父）が運動を引き継ぎました。

タゴール：組織化とウパニシャッドへの回帰

タゴールはローイのウパニシャッド重視の思想を受け継ぎつつ、キリスト教の影響を排除。ウパニシャッドやタントラを基にした祈祷形式を確立し、ブラフモ・サマージを組織化することで、多くのベンガル人を惹きつけ、運動は隆盛を極めました。彼はヒマラヤでの修行を通して、自身の霊性を深めていったと伝えられています。

セーン：社会改革への情熱と分裂

イギリス式の教育を受けたケーシャブ・チャンドラ・セーンの加入は、ブラフモ・サマージに新たな局面をもたらしました。タゴールとは異なり、セーンはヒンドゥー社会の改革に強い関心を持ち、次第にキリスト教にも傾倒していきました。この思想の相違が、1866年のインド・ブラフモ・サマージへの分裂へと繋がったのです。セーンはチャイタニヤ運動の影響を強く受け、バクティ運動的なヴィシュヌ派の要素も持ち合わせていました。また、エマーソンの超越主義哲学にも傾倒し、イギリス滞在時にはキリスト教徒から歓迎を受けました。社会改革にも尽力し、カースト制度の廃止や女子教育の推進、貧民救済など、多岐にわたる活動を行いました。晩年には、ラーマクリシュナとの交流を通して、全ての宗教の統合を目指しました。

分裂と衰退、そしてその後

セーンの社会改革への積極姿勢は、必ずしも支持を得られたわけではありませんでした。娘の婚約問題をきっかけに、1878年にはインド・ブラフモ・サマージからサーダーナン・ブラフモ・サマージが分裂。セーン自身も神智学協会運動に接近し、新たな宗教組織を設立しました。しかし、セーンの死後、インド・ブラフモ・サマージやその派生組織は衰退していき、現在ではサーダーナン・ブラフモ・サマージがわずかに残るのみとなっています。

ブラフモ・サマージの遺産

ブラフモ・サマージとその派生組織は、インド各地で多大な影響を与えました。その活動は、近代インドの宗教、社会、文化に深い足跡を残し、現代インド社会の礎を築いたと言えるでしょう。 ローイ、タゴール、セーンといった主要人物の思想や活動は、今もなお研究され、議論されています。ブラフモ・サマージの歴史を紐解くことは、近代インドを理解する上で欠かせない要素と言えるでしょう。

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