ブリティッシュ・エアウェイズ38便事故

ブリティッシュ・エアウェイズ38便不時着事故

2008年 1月17日午後0時34分（現地時間）、ロンドン・ヒースロー空港で発生したブリティッシュ・エアウェイズ38便の不時着事故は、航空史に残る重大なインシデントでした。この事故は、北京首都国際空港発ロンドン・ヒースロー空港行きの長距離便で、着陸直前に発生しました。

事故概要

事故当日、BA38便はボーイング777-236ER（機体記号：G-YMMM）を使用し、乗員16名、乗客136名を乗せていました。フライトは順調に進み、着陸のため滑走路27LへのILSアプローチを行っていました。副操縦士が操縦を担当していましたが、高度約180m地点でエンジンのスロットルへの反応が突然失われました。これにより、機体は急激に高度を下げ、滑走路手前約300mの不整地に墜落しました。機体は下部を地面に擦りながら停止し、右主脚が脱落、左主脚が左主翼を破損させ、燃料が漏れましたが、幸い火災は発生しませんでした。

着陸態勢であったため、乗員乗客は全員シートベルトを着用しており、迅速な緊急脱出により死者は出ませんでした。しかし、墜落の衝撃で乗客1名が脳震盪で重傷を負い、乗員4名と乗客8名が軽傷を負いました。事故直前、機体は空港外周の道路をわずか6m上空で通過しており、そこにはイギリス首相の車も含まれていたという報告もあります。BBCは、墜落前にエンジンが停止し、滑空状態であったと報じ、一歩間違えば大惨事になっていた可能性を示唆しました。

事故調査

イギリスの航空事故調査部（AAIB）の初期報告では、フライトは正常で、滑走路への最終進入段階まで異常はなかったとされています。高度約180m地点で突然強風に遭遇し、自動スロットルが作動しましたが、エンジンは反応しませんでした。パイロットが手動でスロットルを操作しても、エンジンは応答せず、機体は減速して滑走路手前の芝地に墜落しました。機長は、墜落直前にフラップを調整し、わずかでも機体を長く滑空させようとしました。この判断が、滑走路手前まで到達できた要因の一つとなりました。

操縦を担当していた副操縦士は「最終アプローチの段階で機体に力がないことに気付いた」と述べています。この事故により、ボーイング777は1995年の就航以来、初めて機体が全損となる事故となりました。

事故原因

事故当初は、エンジン2基の同時故障が疑われましたが、トレント800型エンジンは信頼性が高く、同時故障の可能性は低いとされました。また、機体制御システムの誤作動という誤った情報も流れました。調査は難航し、燃料汚染、燃料タンクの目詰まり、さらにはタンク内から発見された小さなテープやプラスチック製のスクレイパーなども疑われました。約2年半前に発生したマレーシア航空124便でのコンピュータの不具合も可能性として浮上しましたが、いずれも否定されました。

AAIBは中間報告で、燃料中の水分が凍結したことが事故の引き金になったとの見解を示しました。燃料供給システム内で氷が生成され、エンジンに供給される燃料が制限されたというものです。2008年11月には、デルタ航空18便で同様の不具合が発生し、この推測が裏付けられました。デルタ航空機は、高高度でエンジンをアイドリングさせたことで氷が溶け、無事着陸できました。しかし、着陸直前の低高度で発生した38便の事故では、回復する時間的余裕がありませんでした。

最終報告では、飛行中に燃料供給システム内で燃料中の水分が凝固し、FOHE（燃料/オイル熱交換器）に詰まり、エンジンに供給される燃料が制限されたことが原因と結論付けられました。燃料流量が少ない状態で長時間飛行すると、燃料供給システム内で氷が生成され、着陸アプローチ時に自動スロットルが燃料供給量を急増させた結果、氷がFOHEに殺到して燃料供給が滞り、墜落に至ったとされています。

38便の事故は、着陸直前の低高度で発生したため回復が困難でしたが、機長のフラップ操作により、滑走路手前まで到達し、乗員乗客全員の生存につながりました。

事故機

事故機となったG-YMMM（製造番号30314）は、ボーイング777の342号機で、2001年にブリティッシュ・エアウェイズに引き渡された新鋭機でした。エンジンはロールス・ロイスのトレント800型を搭載していました。

ヒースロー管制との交信記録

事故発生時のヒースロー管制との交信記録は、以下の通りです。

管制塔: スピードバード38、27Lへの着陸を許可する。風は方位210で10ノット。
38便: 27Lへの着陸を許可、スピードバード38。
（その他の航空機との交信）
38便: メーデー、メーデー、スピードバード、スピードバード、95、95...！
（衝撃音）
管制塔: 航空事故発生、航空事故発生。事故発生点は滑走路27Lの手前、機種はボーイング777、航空機が墜落した。
38便機長: こちら機長、緊急事態発生。脱出してください、脱出してください。
（消防との交信）

事故再発防止対策

事故の再発防止のため、運航マニュアルの変更、FOHEの設計変更と交換が推奨され、ボーイング社とロールス・ロイス社が対応しました。

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