ブレニム (二等戦列艦)

ブレニム：栄光と悲劇の戦列艦

1761年7月5日、イギリス海軍のサンドウィッチ級90門2等戦列艦ブレニムは、ウリッジで進水しました。その壮麗な船体は、数々の海戦を戦い抜く運命を秘めていました。ブレニムは1795年のイエール群島の海戦や、1797年のサン・ビセンテ岬の海戦など、幾多の激戦をくぐり抜け、イギリス海軍の威信をかけた戦いに貢献しました。しかし、長年の航海と戦闘による損傷は深刻で、1801年までに船体は老朽化していました。

それでもなお、ブレニムは現役を続けました。1802年には74門艦に改装され、同年、フッド艦長らを乗せ、トリニダードへ向かう航海に出発、バルバドスへと向かいました。1804年にはブランド艦長の指揮下でポーツマスに帰国、その後も現役で活躍しました。

1805年、ブレニムはトラウブリッジ少将とビッセル勅命艦長を乗せ、マドラスを目指しました。しかし、1807年初頭、トラウブリッジ少将は喜望峰への転属を命じられ、ブレニムは運命の航海へと突き進んでいくことになります。

この頃、ブレニムの老朽化は限界に達していました。常にポンプによる排水作業が必要なほど船体は腐敗し、東インド艦隊司令長官エドワード・ペリューはトラウブリッジ少将に旗艦変更を勧告しましたが、少将はこれを拒否しました。ビッセル勅命艦長もまた、少将に忠告を試みましたが、あざけ笑われるだけであったと言われています。ビッセル艦長は出航前に妻への遺書を残しています。これは、彼らが運命を悟っていたことを示唆する、不吉な前兆だったのかもしれません。

1807年1月12日、ブレニムはスループ艦ハリアーと32門フリゲートのジャバを伴い、マドラスを出発しました。しかし、2月5日の強風によりハリアーと離れ離れとなり、その後、ブレニムは単独で航海を続けます。2月18日には、フランスのフリゲートセミランテによりロドリゲス島沖で目撃されています。さらに、別のフランスのフリゲートはブレニムとジャバに似た船がセントマリー島に立ち寄り修理を行い、再び出航したのをレユニオン沖で目撃したと報告しました。

しかし、それ以降、ブレニムの消息は途絶えます。トラウブリッジ少将の息子であるグレイハウンド艦長エドワードをはじめとする人々の懸命な捜索にもかかわらず、ブレニムの足取りは掴めませんでした。現在では、マダガスカル沖で沈没したと推測されています。画家トーマス・バターズワースは、この悲劇的な出来事をモチーフにした絵画を残しています。

遭難当時、ジャバには約280名、ブレニムには約590名の乗員が乗っていました。その中には、トラウブリッジ少将、ビッセル勅命艦長の他、チャールズ・エルフィンストン艦長（ジョージ・エルフィンストン大将の甥）、士官候補生のローズヒル卿ジョージ（ノーシェスク伯の長男）、ウィリアム・ヘンリー・コートニー（クラレンス公の庶子）、そして掌砲長のジェイムズ・モリソンなど、多くの優秀な士官や乗組員が含まれていました。彼らの多くは、二度と故郷に帰ることはありませんでした。ブレニムの沈没は、イギリス海軍の歴史において、最も悲劇的な出来事の一つとして記憶されています。その謎は、今もなお、多くの人の心を捉え続けています。

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