ブレビアテア綱

ブレビアテア綱 (Breviatea)

ブレビアテア綱は、鞭毛を備えたアメーバ様の形態を持つ微小な真核生物が分類されるグループです。この生物群は、真核生物の進化系統樹において、他の主要なグループが分岐するよりも早期に枝分かれした、いわゆる「系統的に深い」位置にあるとされています。特に、真菌類や動物を含むオピストコンタと呼ばれる巨大なクレードに近縁であり、現在ではこれらのグループとともにオバゾアというより大きな分類群に含まれています。

特徴

ブレビアテア綱に属する生物は、移動する際に進行方向へ一本の鞭毛を伸ばす特徴があります。同時に、糸のように細長い仮足（糸状仮足）を形成し、これを使って基質上を這うように移動します。主な食性は捕食性であり、周囲に存在するバクテリアなどを糸状仮足で絡め取って取り込み、栄養としています。これらの生物は、酸素濃度が低い微好気的な環境や、酸素がほとんど存在しない嫌気的な環境に多く生息しています。細胞内には、一般的な真核生物が持つ呼吸を行うためのミトコンドリアは存在しませんが、その機能の一部を担うと考えられる比較的大きなミトコンドリア様オルガネラ（細胞内小器官）が見られます。

分類と系統的位置の変遷

この分類群は、比較的最近、21世紀に入ってから分子生物学的な解析手法によって新たに認識されたものです。かつて、本綱に属するある種の培養株（ATCC 50338）は、他の鞭毛アメーバ類であるマスチゴアメーバ属の一種と考えられていました。しかし、その後の分子系統解析によって、この株がマスチゴアメーバ科やそれに近縁なペロミクサ科から系統的に大きく離れており、環境中から検出されるDNA配列と単系統群（共通の祖先から進化した一つのまとまり）を形成することが明らかになり、独立した分類群として認識されるに至りました。

分類群が設立された当初は、アメーボゾア（アメーバ動物）の中で最も根元に近い位置にあると提唱されました。しかし、その後のより詳細な遺伝子解析研究により、アメーボゾアよりもむしろ、動物界や菌界を含むオピストコンタに近縁であることが強く示唆されました。この結果を受けて、ブレビアテア綱は、オピストコンタを含むオバゾアというクレードの中に位置づけられています。現在、ブレビアテア綱は、ブレビアチダ目（order Breviatida）、ブレビアータ科（family Breviatidae）のみから構成されており、これまでに以下の4属4種が学術的に記載されています。

記載されている主な属・種

Breviata anathema
ブレビアテア綱が新たに設立された際に、かつてマスチゴアメーバ属と考えられていた培養株ATCC 50338に基づいて新属新種として命名されました。この株は汽水湖から単離されたものです。

Subulatomonas tetraspora
ブレビアテア綱で二番目に記載された新属新種です。細胞の形態が特徴的で、鞭毛に沿って細胞が前方に向かって細長く伸びています。この種は、近海の海底泥から発見されました。

Pygsuia biforma
三番目に記載された種で、前後に2本の鞭毛を持つことが特徴です。この種は、河口の汽水域にあるごく浅い底泥から単離されました。

Lenisia limosa
ブレビアテア綱の中で四番目に記載された新属新種です。この種も前鞭毛と後鞭毛の2本を持ち、細胞は細長い形をしています。潮間帯の底泥における酸化還元境界付近という特殊な環境から単離されました。また、細菌の一種であるArcobacterと、水素を介した共生関係（双利共生）にある可能性が報告されています。これは、両者が互いに利益を得ている関係性を示唆しています。

このように、ブレビアテア綱は、その独特な形態、生息環境、そして真核生物の系統樹における特異な位置づけから、生命の多様性や初期進化を探る上で重要な研究対象となっています。今後の研究により、さらに多くの種やその生態に関する知見が集積されることが期待されます。

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