ブロニスワフ・ピウスツキ

ブロニスワフ・ピオトル・ピウスツキ（Bronisław Piotr Piłsudski）は、1866年にロシア帝国領の地で、没落したポーランド貴族の家に生まれました。彼は文化人類学者であり、社会主義活動家としても知られています。彼の生涯は、流刑、民族学研究、政治活動など、多岐にわたる経験に彩られています。

生い立ちと流刑

ピウスツキは、現在のリトアニアに位置する地で生まれ、ヴィリニュスで高校を中退後、ペテルブルク大学法学部に入学しました。しかし、1887年にアレクサンドル3世暗殺計画に関与したとして逮捕され、懲役15年の判決を受け、サハリン（樺太）へ流刑となりました。この事件では、ウラジーミル・レーニンの兄アレクサンドル・ウリヤーノフも処刑されています。

サハリンでは、当初大工として働いていましたが、後に原住民の子どもたちのための「識字学校」を設立し、ロシア語や算術を教え始めました。この学校では、日本と樺太アイヌの間に生まれた千徳太郎治も教師を務めていました。その後、ピウスツキは警察の事務局員となり、ニヴフ（ギリヤーク）の人々との交流を深めていきます。

民族学研究への傾倒

1891年、ピウスツキは同じく流刑中の民族学者レフ・シュテンベルクと出会い、ニヴフ文化の研究とニヴフ語辞書の編纂に没頭しました。1896年には、アレクサンドル3世の死後の大赦により、刑期が15年から10年に短縮されました。この頃からアイヌとの接触も始まり、資料収集を始めます。同年にはアレクサンドロフスキー岬で開館した博物館に資料を提供しました。1897年に刑期を終えると、1899年にはウラジオストクへ渡り、1900年のパリ万国博覧会用の資料を提供します。

1902年には、アイヌとウィルタ（オロッコ）の調査のため再び樺太へ戻り、写真機と蝋管蓄音機を携えて資料収集を行いました。同年、彼は農民身分となり、樺太南部のアイ（栄浜村相浜）で村長バフンケの姪チュフサンマと結婚し、一男一女をもうけました。二人の子どもは第二次世界大戦後に北海道に移住しており、その子孫は現在も日本で生活しています。特に、長男の木村助造の子孫は、ピウスツキ家唯一の男系子孫です。

日本への亡命と帰国

ピウスツキは、ロシア語などをアイヌに教える一方で、アイヌ、ウィルタ、ツングース族などの資料収集を続けました。しかし、1905年の日露戦争勃発後、バフンケの反対により家族を残して日本へ亡命せざるを得なくなりました。日本では、亡命ロシア人による反皇帝組織を支援し、二葉亭四迷、横山源之助、上田将、大隈重信、鳥居龍蔵、坪井正五郎、宮崎民蔵、片山潜らと交流しました。また、同年には「樺太アイヌ統治規定草案」を作成しています。その後、アメリカ経由でポーランドへ帰国し、ヨーロッパ各地を転々としながら、弟ユゼフらと文通を続け、亡命ポーランド人との交流を通してポーランド独立運動に関与しました。また、ロンドンの日英博覧会に出展された沙流アイヌから50話を採録するなど、アイヌ研究も継続しました。

突然の死とその遺産

1918年、第一次世界大戦終結を目前にして、ピウスツキはパリでセーヌ川に身を投げて自殺しました。遺書はなかったため、自殺の動機は不明です。彼は、樺太での流刑生活の間に、樺太アイヌ、ニヴフ、ウィルタなどの民族に関する写真や音声資料を大量に残しました。特に、200から300本残されたとされる蝋管は、樺太アイヌ語最古の音声資料として重要です。1983年には、ポーランドに残されていた蝋管が北海道大学に貸与され、研究が進められました。樺太アイヌ語の最後の話者とされる浅井タケもこの調査に協力しました。

ピウスツキの弟ユゼフは、1918年にロシア帝国から独立したポーランド共和国の初代国家元首となりました。ブロニスワフ・ピウスツキの功績は、2013年にポーランド政府から白老町のアイヌ民族博物館に胸像が贈られたことからもわかります。また、2020年には直木賞受賞作品「熱源」で、ピウスツキと樺太アイヌとの交流が描かれ、その存在が再認識されました。彼の残した資料は、現在も民族学や言語学の研究に重要な貢献をしています。

主な著作

「樺太アイヌ統治規定草案」1905年
「樺太アイヌの状態」1906年
* The Collected Works of Bronislaw Pilsudski （英語翻訳）

ブロニスワフ・ピウスツキは、その波乱に満ちた生涯を通じて、文化人類学、社会運動、そして異文化理解に大きな足跡を残しました。

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