蝋管

蝋管とは

蝋管（ろうかん、英: wax cylinder）とは、音を録音・再生するための初期の商業用媒体です。1896年から1915年頃にかけて広く普及し、当時は一般的に「レコード」と呼ばれていました。円筒状の物体（シリンダー）の外側に音溝を刻み込み、蝋管型蓄音機に取り付けて再生します。

1910年代には、競合していた円盤状レコードが市場で主流となり、蝋管は商業的な音楽媒体としての役割を終えました。

蝋管の開発

1877年7月18日、トーマス・エジソンとそのチームは蓄音機を発明しました。エジソンが初めて音の録音と再生に成功したのは同年12月初頭で、手回し式の金属シリンダーの表面に溝を刻み、その上に巻き付けた薄いスズ箔に音を記録していました。

しかし、スズ箔はコスト面や音質面で実用的な記録媒体とは言えず、初期の手回し蓄音機は物珍しい玩具として販売された程度でした。その後、エジソンは白熱電球の開発に移り、録音技術の改良は他の人々に引き継がれることになります。

ボルタ研究所で7年間の研究と実験を重ねたチャールズ・サムナー・テンター、アレクサンダー・グラハム・ベル、チチェスター・ベルは、紙筒にワックス（蝋）を塗布したものを記録媒体として使用し、凹みをつけるのではなく彫り込むことで録音を行いました。

テンターらの「グラフォフォン」は1887年にアメリカ議会の議事記録係に試験的に採用され、後にディクタフォン・コーポレーションによって商業生産されました。このシステムがエジソンの代理人の前で実演されると、エジソンはすぐに蓄音機の研究を再開しました。

エジソンが最終的に到達した記録媒体は、全体がワックスでできた厚い筒で、表面を削ることで何度も再利用が可能でした。グラフォフォンとエジソンの「パーフェクテッド・フォノグラフ」は、1888年に商品化されました。最終的に特許を共有する契約が結ばれ、紙筒にワックスをコーティングする方式は廃止され、エジソンによる一体成形の蝋管方式が共通の標準フォーマットとなりました。

蝋管の普及

1885年からは、録音済みの蝋管が販売されるようになりました。プロの歌手や演奏家による歌や器楽曲、ユーモラスなモノローグなどが録音されていました。初期の顧客は、アーケードや居酒屋に設置されたニッケル・イン・ザ・スロットマシン（初期のジュークボックス）の所有者でしたが、徐々に個人の蓄音機所有者が増え、家庭で蝋管を楽しむようになりました。

初期の蝋管は再生時間が2分間で、約120rpmで再生されました。比較的柔らかいワックスで作られていたため、数十回の再生で摩耗してしまいました。そのため、購入者は専用の仕組みを用いて蝋管の表面を削り、滑らかにしてから再録音を行っていました。

1880年代末から90年代にかけて販売された蝋管型蓄音機には、録音機構が付属しているのが一般的でした。再生だけでなく録音も可能だったことが、1890年代末に登場した安価なディスクレコード型蓄音機との競争において、蝋管の強みとなりました。ディスク型蓄音機は、録音済みの音を再生することしかできませんでした。

[蓄音機]]産業の初期には、互換性のない多くの蝋管録音方式が存在しました。1880年代後半になって、エジソン・レコーズ、コロンビア・フォノグラフなどの企業によって標準方式が定められました。標準的な蝋管は、長さ4[[インチ]、直径2+1/4[インチ]、再生時間は2分間でした。

蝋管の進化

年月が経つにつれて、蝋管のワックスは硬いものに変更され、音質を損なうことなく100回以上再生できるようになりました。1902年、エジソン・レコーズは硬さを向上させた蝋管のラインナップとして、「エジソン・ゴールド・モールデッド・レコーズ」を販売しました。

このとき、エジソンがマスターとなる管から型を取り、数百本の管を生産するプロセスを発明したことは大きな進歩でした。このプロセスは、加工中に金電極から金の蒸気が発生したことから「ゴールド・モールデッド」と呼ばれました。

黎明期の蝋管は、1本ごとに生音源から録音する必要があり、記録媒体として使用されていた柔らかい茶色のワックスは、わずか20回程度の再生で摩耗してしまいました。その後、再生用と録音用の蓄音機をゴムチューブで接続したり、パントグラフを利用することで蝋管の複製が可能になりました。複製管の音質は最高とは言えませんでしたが、商品としては十分でした。

蝋管の商用パッケージ

蝋管は厚紙の筒に入れられ、販売されました。筒の両端には厚紙のキャップが被せられ、上側は取り外し可能な蓋になっていました。初期の柔らかい蝋管は、筒の中でさらに厚い綿で包まれていました。後の時代に型押しされた硬い蝋管は、綿の裏地がついた箱で販売されました。セルロイド管は裏地のない箱で販売されました。これらの保護箱は、購入後も蝋管の保管に使用されることが一般的でした。

ジョン・フィリップ・スーザは、音楽が筒に入れて販売される様子を「缶詰音楽」と揶揄しましたが、彼の楽団も蝋管に演奏を吹き込み、利益を得ていました。

初期の蝋管ボックスは、外装が茶色い紙の地のままで、会社名のゴム印が押されていることもありました。1890年代後半には、ボックスの外側に統一されたデザインの印刷ラベルを貼るのが一般的になりました。ラベルには鉛筆でカタログ番号が書き込まれることもありましたが、それ以外の録音内容に関する情報は特にありませんでした。

ボックスの中には、蝋管とともにタイトルと演奏者を記載した紙片（スリップ）が入れられていました。当初、スリップの文字は手書きかタイプライターで書かれていましたが、蝋管の販売量が増えると印刷されたものが一般的になりました。また、蝋管の録音内容にも、通常、冒頭にタイトルと演奏者、そしてレコード会社名を口頭で読み上げたものが含まれていました。

1903年頃のエジソン・レコーズのレコード・スリップでは、情報を印刷した部分を切り取って、ボックスの蓋に貼り付けるよう指示がありました。あるいは、スリップを丸く切り取って、専用の収納ケースやキャビネット内の、その蝋管レコードを差しておく棒の先端に貼り付けることもできました。しかし、そのような収納ユニットを購入する人は少数でした。その後、レコード番号が蓋に刻印されるようになり、さらにはタイトルとアーティスト情報が印刷されたラベルも工場で取り付けられるようになりました。20世紀初頭には、簡略化された情報が管の一端の縁に刻印または印刷されるようになりました。

硬質プラスチック蝋管

1900年、トーマス・B・ランバートは、初期の硬質プラスチックであるセルロイド製の管を大量生産するプロセスの特許を取得しました。フランスのアンリ・リオレは、1893年にすでにセルロイド管を製造していましたが、それらは型から生産されたものではなく、個々に録音されていました。

同年、シカゴのランバート社はセルロイド製のシリンダーレコードの販売を開始しました。セルロイド管は、落下しても破損せず、摩耗することなく何千回も再生可能でしたが、初期の製品の色として明るいピンクを選んだことは、マーケティング戦略上の失敗だったと言われています。

1903年に色は黒に変更されましたが、茶色や青色のものも製造されました。着色が行われたのは、着色剤によって表面の雑音が減少したためだと言われています。ワックスとは異なり、弾力性のない硬質セルロイドは表面を削って再録音することはできませんでしたが、半永久的に使用できるという利点がありました。

出典

[脚注]

参考文献

外部リンク

Tinfoil.com — History of phonograph cylinders; listen to many examples dating from 1878 through 1912
The 1878 Lambert recording - Analysis of the 1878 Frank Lambert recording (until March 2008, believed to be the earliest surviving recording).
1888 white wax cylinder - Listen to one of the earliest classical music cylinders ever recorded
French cylinders - Listen to several French cylinders (Opera, Cafe-Concert)
“Phonograph cylinders”. 2007年6月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2003年7月2日閲覧。 on Bill Clark's 78 rpm Record site
Bob Morritt's Columbia Phonograph Company Cylinder Records Site - ウェイバックマシン（2012年11月10日アーカイブ分）
How did they mass produce those old cylinder records?
The three surviving Edison cylinders on the National Recording Registry with descriptions, audio and transcripts.
Cylinder Preservation and Digitization Project at the University of California, Santa Barbara Library with streaming and downloadable versions of over 10000 cylinders.
Belfer Cylinders Digital Connection at Syracuse University's Belfer Audio Archive, with streaming and downloadable versions of over 1400 cylinders.
The Cylinder Archive - Dedicated to the hobby of collecting phonograph cylinder records
The Archeophone - Official Archeophone site
Vulcan Cylinder Record Company
Ethnographic wax cylinders from the British Library
* The City of London Phonograph and Gramophone Society (CLPGS) publishes histories and catalogue lists of many phonograph cylinder manufacturers.

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