ブロード (織物)

ブロード（Broad）

ブロードとは、元来は羊毛を高密度に織り上げた、非常に目の詰まった織布を指す言葉です。毛織物や綿織物の一種とされますが、特に初期のものは純粋な羊毛、しばしば短繊維の羊毛を原料としていました。現代では綿、絹、ポリエステルなど多様な素材で織られることもありますが、伝統的には羊毛100パーセントのものを指しました。その特徴は、緻密な織り方から生まれる高い強度と耐久性です。英語圏では、この生地はしばしば「ポプリン（Poplin）」とも呼ばれます。

伝統的な製法

中世イングランドにおける伝統的なブロードの製造工程は、特徴的なものでした。まず、短い羊毛繊維をカード機を用いて紡績し、糸を作ります。次に、この糸を広幅の織機にかけて、約1.37メートル（1.75ヤード）という比較的広い幅の布に織り上げます。織り上がった布は、水車を動力とするミル（縮絨機）で縮絨加工が施されました。この縮絨によって布の繊維が絡み合い、フェルトのような密な組織となり、表面は滑らかに仕上がりました。

歴史と発展

ブロードの製造は、西暦1500年前後からイングランドの各地で盛んになりました。特に、イースト・アングリア地方のエセックスやサフォーク、南西イングランドの紡績地区（グロスターシャー、ウィルトシャー、サマセットなど）、そしてウスター、コヴェントリー、ケント州のクランブルックといった地域が主要な生産地として知られます。これらの地域で生産されるブロードは、イングランドでも最高品質と評価されました。

生産されたブロードは、ロンドンの冒険商人会社（Company of Merchant Adventurers of London）によって、染色されていない「白布」の状態でアントウェルペン（現ベルギー）に大量に輸出されました。これらの布はフランドル地方で染色され、最終的には主に北ヨーロッパの市場で販売されました。取引は通常、約22メートル（24ヤード）の「短物」か、約27メートル（30ヤード）の「長物」という形態で行われました。

ウスターで生産された高品質なブロードの原料としては、ヘレフォードシアやシュロップシャー、あるいはコッツウォルズ地方で採れる「レミンスターウール」が用いられました。これらの地域は、牧草地の条件があまり良くなかったため、かえって羊毛採取に適した種類の羊を育てるのに向いていたとされています。

イングランドにおけるブロードの輸出と生産は、16世紀に最盛期を迎え、一部の地方ではブロード以外の特色ある織物も作られるようになりました。しかし、1610年代半ばにウィリアム・コケーン卿が主導した政策の失敗をきっかけに、ブロード産業は徐々に衰退の道をたどり始め、17世紀を通じて下降の一途をたどりました。

それでも、ウスターは白物ブロードの主要な生産地としての地位をしばらく維持しました。また、ラドローやコッツウォルズなど他の地域でも、ウスター産に似せたブロードが作られ始め、これらも「ウスター」として市場に出回るようになりました。しかし、18世紀になると、トルコとの交易を担っていたレヴァント社の取引がフランスの競合によって妨害されるなどの要因が重なり、これらの市場も衰退していきました。これにより、イギリスにおけるブロード生産の重要性は失われることとなったのです。

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