ブロードキャストアドレス

ブロードキャストアドレスとは

ブロードキャストアドレスは、ネットワークに接続された全てのデバイスがデータグラムを受信するための特別なアドレスです。このアドレス宛に送信されたメッセージは、ネットワーク上の全てのホストによって受信されます。これは、特定の宛先ではなく、ネットワーク全体に情報を送信する「ブロードキャスト」という方式を実現するために使われます。

IPv4ネットワークでは、ブロードキャストアドレスはIPアドレスのホスト部を全て1にしたものです。これは、RFC 919で規定された標準的なブロードキャストアドレスであり、ネットワーク内のすべてのデバイスにメッセージを送信するために利用されます。当初はIPアドレス全体でホスト部を1にする方式でしたが、サブネット化やCIDRの導入により、各サブネットごとにブロードキャストアドレスが定義されるようになりました。

具体的には、サブネットマスクのビット補数とホストのIPアドレスとの間でビット単位のOR演算を行うことでブロードキャストアドレスを算出できます。言い換えれば、ホストIPアドレスのうち、サブネットマスクで0になっているビット位置を1にすると、ブロードキャストアドレスが得られます。

例えば、プライベートIPアドレス空間172.16.0.0/12（サブネットマスクは255.240.0.0）の場合、ブロードキャストアドレスは172.31.255.255となります。これは、172.16.0.0と0.15.255.255のビット単位のOR演算によって算出されます。

ブロードキャスト パケットの振る舞い

ブロードキャストアドレス宛に送信されたパケットは、ネットワーク内の全てのホストが自分宛てのものとして認識します。また、ネットワークスイッチなどのOSI参照モデル第2層以下の機器は、このパケットをコピーして全てのポートから転送します。一方、ルータはブロードキャストパケットを他のネットワークに転送しません。このため、ブロードキャストの範囲はルータによって制限されます。

ブロードキャストアドレスの例

- ネットワークアドレス192.168.32.0/24の場合、ブロードキャストアドレスは192.168.32.255です。
- ネットワークアドレス160.189.80.0/20の場合、ブロードキャストアドレスは160.189.95.255です。

リミテッドブロードキャストアドレス

特別なブロードキャストアドレスとして255.255.255.255があります。これは、ローカルネットワークを表すリミテッドブロードキャストアドレスです。自ノードのIPアドレスが不明な場合などに利用され、このアドレス宛に送信されたパケットは、同じネットワークに接続されたすべてのノードにブロードキャストされます。ルータはこのアドレス宛のパケットを他のネットワークに転送してはなりません。

例えば、BOOTPクライアントやDHCPクライアントは、サーバーに要求を送信する際にこのリミテッドブロードキャストアドレスを使用します。

IPv6におけるブロードキャスト

IPv6では、ブロードキャストの代わりにマルチキャストが使用されます。ブロードキャストアドレスは定義されておらず、代わりに全ホストマルチキャストグループ宛にデータを送信します。これにより、ネットワークの効率が向上し、不要なトラフィックが減少します。

イーサネットにおけるブロードキャスト

データリンク層であるイーサネットでもブロードキャストが利用できます。MACアドレス FF:FF:FF:FF:FF:FF 宛に送信されたフレームは、特定のLANセグメント上のすべてのコンピュータに届きます。このアドレスは、IPブロードキャストパケットを含むイーサネットフレームを送信する際に利用されます。

イーサネットブロードキャストは、IPアドレスをMACアドレスに変換するためのARPやNDPでも利用されます。

その他のプロトコルにおけるブロードキャスト

IPXプロトコルでは、ネットワークアドレスを FFFFFFFF とすることで、利用可能なすべてのネットワークにパケットを送信できます。また、宛先ノードアドレスを FFFFFFFFFFFF とした場合、そのパケットはネットワーク内の全てのホストによって受信されます。

AppleTalkプロトコルでも、ノードIDを 255 に指定することで、利用可能な全てのネットワークにパケットを送信できます。

まとめ

ブロードキャストアドレスは、ネットワーク全体にデータを送信するための重要な仕組みです。IPv4ではサブネットマスクに基づいて算出され、ネットワーク内の全てのデバイスに情報を伝達するために利用されます。IPv6ではブロードキャストの代わりにマルチキャストが採用され、ネットワークの効率化が図られています。イーサネットなどの下位層でもブロードキャストが利用され、様々なプロトコルでその機能が活用されています。

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