プブリウス・コルネリウス・ルフィヌス

プブリウス・コルネリウス・ルフィヌス（ラテン語: Publius Cornelius Rufinus、生没年不詳）は、紀元前4世紀の共和政ローマ期に活躍した政治家および軍人です。彼は国家の最高官職の一つである独裁官（ディクタトル）を、紀元前334年と翌紀元前333年の二度にわたり務めました。

出自

ルフィヌスは、共和政ローマにおける最も古く、そして影響力のある貴族（パトリキ）の氏族であるコルネリウス氏族の、コルネリウス・ルフィヌス家の出身です。彼の時代において、ルフィヌス家はまだ氏族内での地位を確立しつつある段階にあり、プブリウス・コルネリウス・ルフィヌスは、彼の家系から初めて独裁官という最高官職に到達した人物として歴史に名を残しました。これは、ルフィヌス家が氏族内でその影響力を拡大していく過程における重要な一歩であったと言えます。

また、歴史的に興味深いことに、後に共和政ローマ末期の混乱期に登場し、恐るべき権力を振るったルキウス・コルネリウス・スッラで知られるスッラ家は、このルフィヌス家から分かれた家系であることが分かっています。したがって、ルキウス・コルネリウス・スッラは、プブリウス・コルネリウス・ルフィヌスの子孫にあたるとされています。

さらに、プブリウスの孫にあたる人物もまたプブリウス・コルネリウス・ルフィヌスという同名でした。この孫もまた、独裁官と執政官という共和政ローマにおける重要な官職をそれぞれ二度ずつ経験するなど、高位に就きました。しかし、この孫は当時のローマ社会が尊んだ質素さや清貧さとはかけ離れた贅沢な生活を送っていたため、厳格なことで知られた監察官（ケンソル）ガイウス・ファブリキウス・ルスキヌスによって、元老院議員のリストから除名されるという出来事がありました。このエピソードは、ルフィヌス家の盛衰や、当時のローマ社会における価値観の一端を垣間見せるものです。

経歴

プブリウス・コルネリウス・ルフィヌスの政治家・軍人としてのキャリアにおいて最も特筆すべきは、紀元前334年と紀元前333年の二度にわたる独裁官就任です。

紀元前334年、当時の執政官であったスプリウス・ポストゥミウス・アルビヌスとティトゥス・ウェトゥリウス・カルウィヌスは、イタリア半島南部のシディキニ族（en）との間で軍事的な衝突を抱えていました。この紛争が激化し、シディキニ族が多数の兵力を結集しただけでなく、さらに南方の強力な勢力であったサムニウムが彼らと同盟を結んだという報告がローマに届くと、元老院はこの危機的な状況に対処するため、非常時における最高指揮官である独裁官にルフィヌスを任命することを決定しました。

ルフィヌスは翌紀元前333年も引き続き独裁官の職を務めました。この紀元前333年という年は、共和政ローマの歴史において極めて異例な年として記録されています。なぜなら、古代の歴史資料にはこの年の正規の執政官の名前が記録されていないためです。カピトリヌスのファスティと呼ばれる共和政期高官の公式リストによれば、紀元前4世紀後半には、執政官が置かれずに独裁官がその職務を代行した、いわゆる「独裁官の年」が合計で4回あったとされており、紀元前333年がその最初の例であるとされています。これは、通常の政務体系が機能しないほどの、何らかの非常事態や政治的な混乱が存在したことを示唆しています。

しかし、ルフィヌスとその副官にあたるマギステル・エクィトゥム（騎兵長官）であったマルクス・アントニウスは、この独裁官としての任期を全うすることなく、辞任に追い込まれています。その理由は、彼らの任命や地位そのものに関して、宗教的な観点から問題があると判断されたためと伝えられています。具体的な宗教的な瑕疵の内容については史料からは明確ではありませんが、この出来事は、古代ローマの政治において宗教的な要素がいかに重要視されていたかを示しています。

プブリウス・コルネリウス・ルフィヌスの独裁官在任期間は短かったものの、彼の存在は、共和政ローマがイタリア半島の覇権を確立していく激動の時代において、非常事態に対応するための独裁官制度が果たした役割や、氏族の興隆、そして政治と宗教の関係といった、当時のローマ社会の複雑な様相を理解する上で重要な一端を担っています。また、彼がルフィヌス家から初めて高位に就いた人物であり、後に強大な勢力となるスッラ家がその家系から分派したという事実は、ローマの名門貴族の歴史を語る上でも欠かせない人物と言えるでしょう。

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