プライヤ

プライヤとは

プライヤの正式名称は、コンビネーションプライヤ（JISB4614 英文:Slip joint combination pliers with cutters）といいます。ペンチよりも開口範囲を大きくするために、ピボット（ジョイント部分）がスライド構造になっている工具です。大きな物を挟む際には、ピボットを握り方向にスライドさせることで、先端部分が大きく開きます。この構造により、通常のペンチよりも挟める物の範囲が広いため、自動車の車載工具によく採用されています。現在、日本国内でプライヤを専門に製造しているメーカーは、1940年に燕三条で創業した株式会社五十嵐プライヤーのみです。

英米では、ペンチを含む挟み工具全般をプライヤ（pliers:常に複数表示）と呼びます。日本で標準的なスライド構造のプライヤは、Slip joint combination pliersに相当します。コンビネーション（Combination）という名前は、「複合機能」を意味し、先端で挟む、あごの中央部で掴む、結合軸付近で軟鋼線を切断するという3つの機能があることに由来します。その他、ニードルノーズプライヤ（ラジオペンチ）、ロッキングプライヤ（バイスグリップ）などもpliersの一種として扱われます。

プライヤの歴史

人類が火を使って料理を始めた頃から、熱い物を安全に掴むための道具、いわゆるやっとこが使われていました。金属加工技術が発展すると、プライヤも金属製で作られるようになり、紀元前2000年頃のヨーロッパで最初の金属製プライヤが使われた記録があります。プライヤが登場する以前は、やっとこが金床で熱した鉄を掴むために使われていました。この様子は、ギリシャ神話の鍛冶の神ヘーパイストスのイラストにも描かれています。

プライヤの設計における重要な原則は、その形状が機能に従うということです。物を掴むという問題を解決するために、様々なデザインのプライヤが生まれました。例えば、馬蹄を打ち付けたり、有刺鉄線を張ったりする特定の作業に特化したプライヤや、ワイヤーを切断したり、スナップリングを取り付けたりする単一機能のプライヤがあります。また、ネジの切断、ワイヤーの絶縁被覆の剥離、コネクタの圧着など、複数の機能を持つ多機能プライヤも存在します。

現在、プライヤのモデルは非常に多く、一般的に使用されるタイプだけでも約100種類に上ります。この多様性こそが、プライヤを工具箱の中で最も役に立つ工具の一つにしている理由です。特定の作業に必要なプライヤは、必ず見つけることができるでしょう。

プライヤの機能

全ての工具と同様に、プライヤは人間の手の力を効果的に高めるために設計されています。プライヤは、テコの原理（2つの腕からなるレバー比の法則）を利用しており、握り部の小さな力を、アゴや先端で大きな力に変えることができます。大きな力を出すためには、リベットの中心から掴み部や切断刃までの距離を短く、ハンドルまでの距離を長くする必要があります。一方で、電子機器や精密機器の作業では、大きな力は必要ないため、コンパクトなプライヤが適しています。

用途によるタイプ分類

プライヤの代表的なタイプには、コンビネーションプライヤ、ラジオペンチ、ニッパ、メカニックプライヤ、ウォーターポンププライヤなどがあります。これらは、切断と掴む、切断と挟む、掴むというように、用途に応じて分類することができます。

切断と掴むタイプ
コンビネーションプライヤ
ラジオペンチ

切断と挟むタイプ
ペンチ

掴むタイプ
フラットペンチ
ロングノーズプライヤ
ウォーターポンププライヤ

結合部の方式

コンビネーションプライヤ（スリップジョイントプライヤ）の結合部は、レイオンジョイント方式と呼ばれるもので、左右の本体がリベット留めかボルト・ナットで組み合わされています。この方式では、ハンドルを90度開くと、軸の細くなっている部分と本体溝のスリップする方向が一致し、口の開きを調節できます。この機構により、プライヤは異なるサイズの物を掴むことができます。

ニッパに代表されるラップジョイント（重ね合わせ）方式では、ハンドルの結合部リベットが固定されており、ハンドルが結合部を中心に回転します。この結合部は隙間なくしっかりと組み合わされています。

ウォーターポンププライヤに見られるボックスジョイント方式は、プライヤ本体の半分がもう半分の本体の溝に通されており、特殊なボルトで固定されます。この方式は、他の結合部よりも大きな負荷に耐えることができます。

材質

プライヤは、合金または非合金工具鋼の鍛造品です。標準的なプライヤには、0.45パーセントの炭素含有量の工具鋼が使用されます。高品質のプライヤには、炭素含有量が多い鋼材や、クロム、バナジウムなどの合金鋼が使われます。

種類

プライヤには、様々な作業に対応できるように、様々な形状や機能を持つ種類があります。

コンビネーションプライヤ
ハンドルを大きく開くと、結合部を滑らせて口幅を広げることができ、4ミリ程度の線材の切断も可能です。ただし、結合部にガタが多い工具なので、細い線材の切断には不向きです。呼び150と200の2種類があり、材質はクロム鋼が使われています。挟む際には、小さいものは先端、大きいものは凹部のギザギザ部分を使用します。

シンノーズプライヤ
くわえ部を薄くしたもので、狭い場所での使用に適しています。

ベントノーズプライヤ
シンノーズプライヤのくわえ部を30度曲げたものです。

ロングノーズプライヤ
先端部分を細長くしたプライヤですが、結合部は固定式です。

ペンチプライヤ
ペンチの刃とプライヤの挟み部を組み合わせたものです。

ペンチ
電工ペンチは、端子やコードを掴んだり、曲げたり、電線を切断することができます。日本ではプライヤよりも普及しており、針金の曲げや切断によく使われます。

ウォーターポンププライヤ
開口部の方向を30～45度ほど曲げたプライヤで、水道管やガス管など狭い場所での作業に使われます。日本では「アンギラ」や「ポンプラ」とも呼ばれます。調整の段数が多く、大きな物も掴むことができ、握り手も長いので強い力でものを掴めます。アゴの形状や軸の構造に工夫が凝らされており、対象物を傷つけないようにアゴに柔らかい部品を取り付けたものもあります。

自動調節プライヤ
ウォーターポンププライヤは、挟める幅が広いものの、事前に軸を調整する必要があります。自動調節プライヤは、握るだけで軸の設定と対象物を挟む作業が連続してできる機構を備えています。代表的なものに「ROBOGRIP（ロボグリップ）」や「スマートグリップ」があります。類似品として「オートマチックモンキープライヤ」「自動調節万能プライヤ」などがあります。

スナップリングプライヤ
C型のスナップリング着脱専用工具で、軸用と穴用の2種類があり、直爪と曲爪があります。軸・穴兼用タイプもあります。

ロッキングプライヤ（バイスグリップ）
ハンドルを握るだけでロックし、ロックされると、物をくわえたまま手を放すことができるプライヤです。カーブ、ストレート、ロングノーズ、溶接用、板金用など様々な種類があります。ロックジョーという自動アジャスト機能付きのタイプも発売されています。ロッキングプライヤは、口先の形状によりコンビネーションタイプ、ロングノーズタイプ、C型クランプタイプ、パッドクランプタイプに大別されます。

鉗子
鉗子（Forceps）は主に手術に使われるプライヤで、掴む対象により様々な形状があります。はさみ型が多く使われるためシザープライヤ（Scissor Plier）とも呼ばれます。

まとめ

プライヤは、様々な作業に対応できるように、多種多様な種類が存在する手動工具です。それぞれの特徴を理解し、用途に応じて適切なプライヤを選ぶことが重要です。

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