プリア・ピトゥ

プリア・ピトゥ（Preah Pithu）は、カンボジアのアンコール遺跡群の中でも、アンコール・トムの北に位置する、5つの寺院からなる遺跡群です。この寺院群は、テップ・プラナムの東側に位置し、近接して配置されていますが、全てが同時期に建てられたわけではありません。主に12世紀前半から13世紀、すなわちスーリヤヴァルマン2世の治世（1113-1150年）からジャヤーヴァルマン8世の治世（1243-1295年）にかけて、段階的に建設されたと考えられています。しかし、正確な年代特定は難しく、それぞれの寺院がどの順番で建てられたのかも明確にはなっていません。

寺院群は、アルファベットのT、U、X、V、Yで分類されています。このうち、寺院「X」は仏教寺院であり、他の4つはヒンドゥー教寺院です。特に「X」は未完成のままであり、最も新しい時期に建設されたと考えられています。これらの寺院は、全体的に状態があまり良くなく、上層部は崩壊している箇所も多く見られますが、彫刻は非常に興味深く、また静かで木々が生い茂った場所は訪れる人を魅了します。かつては寺院群を囲んでいた濠も、現在はほとんどが干上がっています。これらの遺跡は、1908年にジャン・コマユールによって、その後1918年から1920年にかけてアンリ・マーシャルによって整備されました。

寺院「T」と「U」

寺院「T」と「U」は、ほぼ同時期に建設されたと考えられています。同じ東西軸上に位置し、一つの濠で囲まれているのが特徴です。どちらも西向きに建てられており、入り口にはナーガの欄干と、二つの基壇を持つ十字型のテラスがあります。

寺院「T」は、東西45メートル、南北40メートルの砂岩の壁で囲まれており、東西の主軸上には2つの塔門（ゴープラム）があります。聖所は、高さ約6メートルの装飾が施された3層の基壇の上に建てられ、その台座の上には大きなリンガを納めた祠堂があります。西側の扉のまぐさには、「乳海攪拌」を様式化した描写が見られ、壁面はデヴァターや花の模様がバイヨン様式で飾られています。

寺院「U」は、「T」に似ていますが、より小さく簡素な造りです。周囲の壁は東西35メートル、南北28メートルで、塔門はありません。2層の基壇の上に祠堂があり、西側の扉のまぐさには、ヴィシュヌとブラフマーの間に、カーラ（キールティムカ）の頭上で踊るシヴァが描かれています。内壁にはドヴァーラパーラが彫刻されており、柱の基部に見られる盲アーチは、アンコール・ワット時代特有のものです。北側のまぐさには、別の「乳海攪拌」の描写が見られます。

寺院「X」

寺院「X」は、寺院「U」の東約100メートルの場所に位置し、一辺40メートル、高さ4メートルの大きな基壇の上に建てられています。濠が干上がっている場合は、直接アクセスが可能です。様式は他の寺院と似ていますが、より大きく、装飾は未完成です。

「X」は仏教寺院であり、聖室の壁には二列に並んだ仏陀像が彫られています。まぐさも仏教的なモチーフで飾られていますが、釈迦の断髪を描いた最も注目される遺構は見つかっていません。東に伸びるラテライトのテラスは、結界石（シーマ石）で囲まれており、聖域の境界を示しています。

寺院「V」

寺院「V」は、寺院「U」の北、濠の外側に位置し、東を向いています。二重の前庭から始まり、周囲の壁はありません。西側には渡り参道があり、それは長さ40メートルの十字型のテラスで終わり、王宮広場の北東角に繋がっています。聖室は、2層の彫刻された基壇の上に建てられており、この寺院群の中で最も大きく、3.8メートル四方で、1.5メートルの大きなリンガを祀っています。アンコール・ワット様式の外装は未完成です。

寺院「Y」

寺院「Y」は、基壇や階段を持たず、「V」の北側の土台の上に建っています。建築様式から、アンコール・ワット時代とバイヨン時代の間に建てられたと考えられています。東向きに、入り口として長い拝殿（マンダパ）があり、前庭を通じて高さ0.95メートルのリンガを祀った3.5×3.0メートルの聖室に繋がっています。大きな部屋はほとんど崩壊していますが、西側には2つの注目すべき半フロントンがあり、北側にはクリシュナがアスラのバーナを破る場面が、南側には大きく3歩を踏み出すヴァーマナが描写されています。

プリア・ピトゥは、その歴史と多様な建築様式、そして静寂な環境から、アンコール遺跡群の中でも訪れる価値のある場所の一つです。各寺院が持つ独特の魅力は、訪れる人々に深い感動を与えます。

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