ジャヤーヴァルマン8世

ジャヤーヴァルマン8世の生涯

ジャヤーヴァルマン8世は、13世紀のクメール王朝の第23代君主です。1243年から1295年まで、実に52年間という歴代最長の治世を誇りました。彼の出自については、先代のインドラヴァルマン2世の子とも言われていますが、確かなことはわかっていません。しかし、王族であったことは間違いないと考えられています。

ジャヤーヴァルマン8世は、熱心なシヴァ派ヒンドゥー教の信者でした。そのため、先代までの仏教勢力とは対立し、大規模な宗教政策を実施しました。特に、先々代のジャヤーヴァルマン7世が建立したアンコール・ワット周辺の仏教寺院を徹底的に改築しました。具体的には、バンテアイ・クデイやタ・プローム、プリヤ・カーンといった仏教寺院から仏像を撤去・破壊し、代わりにハリハラ神を祀るヒンドゥー寺院へと改造しました。さらに、ガルダやナーガといったヒンドゥー教の神々の像や浮彫を数多く造成しました。この大規模な廃仏の事実は、2001年に大量の遺物が発見されたことで明らかになりました。

これらのことから、ジャヤーヴァルマン8世の時代は、従来の学説とは異なり、必ずしも衰退期ではなかったと考えられています。むしろ、ジャヤーヴァルマン7世の寺院建立による財政難を克服し、一定の繁栄を築いた時代であったと評価されるようになっています。

対外関係と晩年

ジャヤーヴァルマン8世の治世は、周辺諸国との関係においても重要な転換期を迎えました。『真臘風土記』には、1282年から1283年にかけて、モンゴル軍がチャンパー（現在のベトナム中南部）に侵攻した際、モンゴル軍司令官のソゲドゥが使者を真臘に派遣したものの、拘束されて帰国できなかったと記録されています。一方、チャンパー側もモンゴル軍の侵攻を受け、近隣諸国に援軍を要請しました。その結果、ジャヤーヴァルマン8世はモンゴルとチャンパーの両国から協力要請を受けましたが、最終的にはチャンパーとの提携を選んだようです。

モンゴル軍の使者が真臘に派遣されたのは、ソゲドゥがチャンパー国境付近に駐屯していた1283年後半頃と考えられています。使者は、現在のベトナム広治省からラオスを経由して、アンコール・トムに到着したと推測されています。

その後、1285年と1292年には、ジャヤーヴァルマン8世は大元ウルス（モンゴル帝国）に朝貢し、和を結びました。しかし、治世の晩年には、スコータイ王朝（現在のタイ）との抗争によって国土が荒廃しました。また、バンテアイ・サムレを拡張し、マンガラールタを新たに建立しました。

1295年、ジャヤーヴァルマン8世は、長女シュリンドラブッペーシュヴァラチューダの夫である仏教徒のインドラヴァルマン3世によって暗殺されました。その翌年、元の周達観らがインドラヴァルマン3世治下のクメールを訪問し、その見聞を『真臘風土記』として著しました。この記録は、当時のクメール王朝の様子を知る上で非常に重要な資料となっています。

まとめ

ジャヤーヴァルマン8世は、52年にも及ぶ長い治世の中で、宗教政策、対外関係、内政など、さまざまな分野で大きな変化をもたらしました。彼の時代は、従来の学説とは異なり、経済的な繁栄を遂げた時期であったという見方も出てきています。また、モンゴル帝国の勢力拡大という激動の時代に、巧みな外交戦略で国を維持した王でもありました。

参考資料

George Cœdès (May 1, 1968). Walter F. Vella. ed. The Indianized States of South-East Asia. Susan Brown Cowing. trans. University of Hawaii Press.
レイ・タン・コイ 著、石澤良昭 訳『東南アジア史』（増補新版）白水社〈文庫クセジュ〉、2000年4月30日。
石澤良昭『アンコール・王たちの物語 碑文・発掘成果から読み解く』NHK出版〈NHKブックス〉、2005年7月30日。
迫田龍 著「カンボジア文化講座」、大橋圭子 編『るるぶアンコールワット』JTBパブリッシング、2015年9月30日。
山本達郎『安南史研究』山川出版社、1950年

外部リンク

“アンコール・ワット付近から大量の廃仏発見”. 上智大学

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