プリイェドルの虐殺

プリイェドルの虐殺：ボスニア紛争における悲劇

プリイェドルの虐殺は、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中の1992年に、プリイェドル地域で発生した一連の戦争犯罪です。セルビア人の主導のもと、主にボシュニャク人市民が標的となり、その規模はスレブレニツァの虐殺に次ぐものとされています。

背景

1991年、スロベニアとクロアチアが独立を宣言した後、プリイェドル地域の状況は急速に悪化しました。クロアチアでの戦争が始まると、地域社会のセルビア人、クロアチア人、ボシュニャク人の間で緊張が高まりました。

プロパガンダ

セルビア人によるプロパガンダは、非セルビア人に対する敵意を煽り立てました。メディアは「ウスタシャ」「ムジャーヒディーン」「緑ベレー帽」といった言葉を使い、非セルビア人を侮辱しました。プリイェドル・ラジオは、クロアチア人やボシュニャク人を中傷するプロパガンダを流布し、コザラ山の送信機を利用して、セルビア民族主義的な内容を繰り返し放送しました。

乗っ取り

1992年4月、セルビア民主党は自治体の乗っ取りを決定し、セルビア人部隊がユーゴスラビア人民軍（JNA）と協力して行動しました。秘密の警察署が設けられ、武装したセルビア人が乗っ取りに加担しました。

権力掌握

セルビア人政治家は地域の乗っ取りを宣言し、プリイェドル・ラジオを通じて繰り返し放送しました。乗っ取りは自治体の市長、副市長、郵便局長、警察署長などの地位を対象とし、セルビア人のみがこれらの地位に就くことを目指しました。

市民への攻撃

乗っ取り後、プリイェドルでは非セルビア人市民に対する緊張と恐怖が増大しました。セルビア人勢力はボシュニャク人の町や村を攻撃し、多くの人々が殺害されました。国際刑事裁判所（ICTY）は、これらの攻撃が虐殺と大規模な蛮行に相当すると認定しました。

プロパガンダの拡散

プリイェドル・ラジオはセルビア人民族主義的な思想を広め、非セルビア人を犯罪者や過激主義者として扱いました。メディアは虚偽の情報を流布し、セルビア人を扇動して非セルビア人を攻撃させようとしました。ICTYはこれらのプロパガンダを「まったくの虚構である」と断定しました。

セルビア人兵力の強化

プリイェドルのセルビア人当局は軍事力を強化し、1992年5月12日にはラトコ・ムラディッチを司令官とするセルビア人軍（スルプスカ共和国軍; VRS）を設立しました。ボシュニャク人市民は武器の引き渡しとスルプスカ共和国への忠誠を求められ、抵抗すれば処罰されると脅迫されました。

非セルビア人の家屋のマーキング

非セルビア人は職を失い、家屋の外に白い布を吊るすよう命じられました。これは、セルビア人当局への忠誠を示すためとされました。

ハンバリネとコザラツへの攻撃

1992年5月、セルビア人勢力はハンバリネとコザラツの町を攻撃しました。住民は避難を余儀なくされ、多くの人々が殺害されました。コザラツでは、セルビア人勢力が「あらゆる動くもの」を射撃し、少なくとも2000人の村人が殺害されたとされています。

強制収容所

プリイェドル地域には、ケラテルム、オマルスカ、トルノポリェなどの強制収容所が設立されました。これらの収容所では、ボシュニャク人やクロアチア人が拘禁され、虐待を受け、殺害されました。

ケラテルム強制収容所

ケラテルム強制収容所は、1992年5月に工場を改装して作られました。収容者は劣悪な環境に置かれ、食糧も十分に与えられませんでした。1992年7月には、収容者に対する虐殺事件が発生しました。

オマルスカ強制収容所

オマルスカ強制収容所は、プリイェドルから20キロメートル離れた鉱山施設にありました。収容者は過酷な環境に置かれ、日常的に殴打されました。1992年8月、外国人ジャーナリストの訪問後、収容所は閉鎖されました。

トルノポリェ強制収容所

トルノポリェ強制収容所は、1992年5月に設置されました。数千人の捕虜が拘禁され、虐待を受けました。女性は強姦や性的暴行を受けました。1992年9月、収容所は公式に閉鎖されましたが、多くの人々がその後も拘禁されました。

収容所での殺害

プリイェドルの民族浄化の間、収容所の内外で多くの殺害が行われました。オマルスカ強制収容所では100人以上が殺害され、ケラテルム収容所では大規模な虐殺事件が発生しました。

プリイェドルの虐殺は、ボスニア紛争における悲劇的な出来事であり、多くの人々の命を奪い、地域社会に深い傷跡を残しました。

参考文献
多谷千香子 (2005年10月20日). 「民族浄化」を裁く―旧ユーゴ戦犯法廷の現場から. 日本、東京: 岩波書店. ISBN 978-4004309734

もう一度検索