プリトビ・ビール・ビクラム・シャハ

プリトビ・ビール・ビクラム・シャハ（Prithvi Bir Bikram Shah）は、1875年 8月18日に生まれ、1911年 12月11日に没したネパール王国の第7代君主です。彼は1881年から崩御するまでの期間、ゴルカ朝の王として在位しました。第6代君主であった祖父スレンドラ・ビクラム・シャハ、そして当時のネパールの実権を握っていた首相ジャンガ・バハドゥル・ラナの孫にあたります。

生涯と即位

プリトビは、スレンドラ王の息子であるトライローキャ・ビクラム・シャハ王子の子供として生を受けました。1881年 5月17日、祖父であるスレンドラ王がその生涯を終えると、わずか5歳であったプリトビが王位を継承することになりました。しかし、この時代のネパール王国は、既に国王が名目上の存在となり、事実上の統治権は首相であるラナ家が握っている状態でした。プリトビが幼少であったこともあり、実権は即位前と同様、強力な権力を持つラナ家によって完全に掌握されたまま推移しました。国王は首都カトマンズの宮殿に居住し、儀礼的な役割を果たすのみで、国の政治はラナ家の当主である首相によって専断的に行われていました。

ラナ家の専制と王権

ネパール王国におけるラナ家の支配は、ジャンガ・バハドゥル・ラナが1846年にクーデターを起こして実権を掌握して以来続いていました。彼は自らを終身首相とし、その地位を世襲制としました。これにより、王室の権威は形骸化し、ゴルカ朝の国王はラナ家の傀儡として扱われるようになりました。プリトビの治世においても、この状況に根本的な変化はありませんでした。彼が王位にあった期間、ネパールを実質的に統治していたのは、ラナ家出身の首相たちでした。国王は政治に関与する権限を持たず、国家の重要な意思決定はすべて首相とその一族によって行われました。このような状況下で、プリトビ王がどのような立場に置かれていたかは、その短い生涯を見ても明らかです。父であるトライローキャ王子も、ラナ家の権力に不満を抱き、王権回復を目指した動きを見せたと言われていますが、その試みは成功せず、若くして亡くなっています。プリトビ王もまた、同様の境遇にありました。

崩御とその背景

プリトビ・ビール・ビクラム・シャハは、1911年 12月11日に36歳の若さで、カトマンズの宮殿にて崩御しました。彼の崩御に関しては、単なる病死ではなかったとする説が存在します。この説によれば、プリトビ王が父トライローキャ王子と同様に、ラナ家から王権を取り戻そうとする動きを見せたため、当時の首相であったチャンドラ・シャムシェル・ジャンガ・バハドゥル・ラナによって毒殺されたとされています。この毒殺説は広く語られていますが、公式な記録で確認されているわけではありません。しかし、ラナ家による厳しい監視下にあった王室の状況や、過去の王権回復の試みが阻まれてきた歴史を鑑みると、そのような疑念が生じる背景は存在すると言えるでしょう。プリトビ王の死後、王位は当時まだ幼かった息子のトリブバン・ビール・ビクラム・シャハに引き継がれました。トリブバン王もまた、即位当初は父親と同様にラナ家の支配下に置かれることになりますが、後にネパール近代史において重要な役割を果たすことになります。

プリトビ・ビール・ビクラム・シャハの治世は、ネパールがラナ家による強力な専制支配下にあり、国王が実質的な権力を持たない時代の典型として位置づけられます。彼の短い生涯は、王室が権力を回復するための闘争と、それを徹底的に抑圧しようとするラナ家との間の緊張関係を象徴しているとも言えるかもしれません。

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