プリマポルタのアウグストゥス

プリマポルタのアウグストゥスは、古代ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの姿を象った大理石像として、最も著名な作品の一つです。この像は、アウグストゥスの妻リウィア・ドルシッラが隠棲していたプリマポルタの別荘跡で1863年に発見され、その発掘地にちなんで「プリマポルタのアウグストゥス」と名付けられました。現在はバチカン美術館に所蔵されています。

アウグストゥスの大理石像は数多く制作され、今日まで多くの作品が残っていますが、プリマポルタのアウグストゥスは特に保存状態が良く、ほぼ完璧な形で発見されたため、アウグストゥス像の分類における基準としても用いられています。この軍装をまとったアウグストゥス像は、その彫刻としての芸術的評価も非常に高く、ローマ美術を代表する傑作として広く知られています。

この像の制作年代は、アウグストゥスが権力を確立した紀元前28/27年以降と考えられています。それ以前のタイプのアウグストゥス像がヘレニズム美術の影響を強く受けていたのに対し、プリマポルタのアウグストゥスが代表するタイプは、古典ギリシアの理想主義的な要素を強調しています。制作当時は彩色されていたことが分かっていますが、発掘された時にはすでに色彩は失われていました。しかし、このことが逆に素材である大理石の風合いを際立たせ、像に重厚感を与えているとも言えます。

アウグストゥスが身に着けている甲冑には、ローマ軍団の象徴である鷲旗（軍団旗）がローマに返還される場面が浮き彫りで描かれています。この鷲旗は、マルクス・リキニウス・クラッススまたはマルクス・アントニウスがパルティアとの戦いで失ったものとされ、アウグストゥスがパルティアから鷲旗の返還を受けたことを記念して表現されています。アウグストゥスはこのような功績を自らの像によって示すことで、パクス・ロマーナ（ローマの平和）の到来を象徴的に表現しようとしたと考えられています。

さらに、アウグストゥスの足元には、愛の神ウェヌスの子とされるアモル（キューピッド）が配されています。これは、アウグストゥスがカエサルの養子となることで属したユリウス氏族が、ウェヌスの子孫であると主張していたことに由来し、アウグストゥスの血統を象徴的に表しています。アモル像の存在は、アウグストゥスが自らの権力を正当化し、その家系の高貴さを誇示する意図があったことを示唆しています。

プリマポルタのアウグストゥスは、単なる皇帝の肖像彫刻ではなく、アウグストゥスの政治的・文化的メッセージを伝える重要な史料であり、古代ローマ美術を理解する上で欠かせない作品です。その芸術的な美しさとともに、歴史的・政治的な背景を読み解くことで、より深くこの像を理解することができるでしょう。

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