プレイシズ・アンド・スペイシズ

『プレイシズ・アンド・スペイシズ』は、アメリカ合衆国の著名なジャズ・トランペット奏者、ドナルド・バードが1975年に発表したスタジオ・アルバムです。この作品は、彼のキャリアの中でも特にファンクやソウルミュージックの要素を色濃く取り入れた時期の代表作として位置づけられています。

制作背景

このアルバムは、ドナルド・バードと、アレンジャー・プロデューサーであるラリーおよびフォンスのマイゼル兄弟との、共同作業による4作目のスタジオ録音盤です。バードとマイゼル兄弟は、1972年録音のアルバム『ブラック・バード』（発表は1973年）から協力を開始し、以降、伝統的なジャズにR&B、ファンク、フュージョンのサウンドを融合させた、より現代的でクロスオーバーな音楽スタイルを追求しました。本作も、彼らの緊密な連携のもと制作され、洗練されたサウンドプロダクションが特徴となっています。

収録曲には、オリジナル曲に加え、当時の人気ソウル・コーラスグループ、テンプテーションズが1971年にヒットさせた楽曲「ジャスト・マイ・イマジネーション」のカバーバージョンが収録されています。これは、当時のブラックミュージックシーンにおけるジャンルの垣根を越えた交流や、ソウルミュージックへの敬意を示すものと言えるでしょう。

収録曲と音楽性

アルバムには、マイゼル兄弟が作曲・アレンジを手がけたオリジナル曲を中心に、以下のような楽曲が収められています。

1. チェンジ (Change (Makes You Want to Hustle))
2. ウィンド・パレード (Wind Parade)
3. ドミノ (Dominoes)
4. プレイシズ・アンド・スペイシズ (Places and Spaces)
5. ユー・アンド・ミュージック (You and Music)
6. ナイト・ホイッスラー (Night Whistler)
7. ジャスト・マイ・イマジネーション (Just My Imagination)

これらの楽曲は、タイトなリズムセクションと、滑らかでメロディアスなホーンアレンジ、そしてキーボードやギター、パーカッションが織りなすグルーヴィーなサウンドが特徴です。特にタイトル曲である「プレイシズ・アンド・スペイシズ」や、「ウィンド・パレード」などは、そのスペーシーかつ都会的な雰囲気で、発表当時から現在に至るまで高い人気を誇っています。また、バード自身のトランペットやフリューゲルホルンのプレイは、テクニカルでありながらもメロディックで、楽曲のムードを一層引き立てています。

商業的成功と評価

『プレイシズ・アンド・スペイシズ』は、リリース後に商業的な成功を収めました。アメリカの総合アルバムチャートであるBillboard 200では最高49位を記録しました。また、音楽ジャンル別のチャートでは、ビルボードのジャズ・アルバム・チャートで自身にとって2作目となる第1位を獲得し、ジャズ界での揺るぎない地位を示しました。さらに、R&Bアルバム・チャートでも6位にランクインするなど、ジャズの枠を超えて、幅広いリスナー層に受け入れられた作品であることを証明しました。

批評家からの評価も高く、例えば音楽レビューサイト「オールミュージック」のスティーブン・トーマス・アールワインは、このアルバムに5点満点中4点を与えています。彼はレビューの中で、本作がマーヴィン・ゲイ、アース・ウィンド・アンド・ファイアー、スティーヴィー・ワンダーといった同時代のソウルやファンクの巨匠たちの影響を取り入れていることに言及し、「よりファンキーかつソウルフルなアルバムとなった」と評しました。これは、当時の音楽シーンにおけるバードの立ち位置や、彼が積極的に新しいサウンドを取り込んでいた姿勢をよく表しています。

参加ミュージシャン

このアルバムの豊かなサウンドは、ドナルド・バード（トランペット、フリューゲルホルン、ボーカル）とマイゼル兄弟（フォンス・マイゼル：トランペット、クラビネット、ボーカル／ラリー・マイゼル：ピアノ、ボーカル、アレンジ）を中心に、多数の才能あるミュージシャンによって支えられています。

リズムセクションには、チャック・レイニー（エレクトリックベース）やハーヴィー・メイソン（ドラムス）といった、当時引っ張りだこだった名プレイヤーが参加し、強固なグルーヴを生み出しました。その他、レイモンド・ブラウン（トランペット）、ジョージ・ボハノン（トロンボーン）、タイリー・グレン・ジュニア（テナー・サクソフォーン）がホーンセクションを、スキップ・スカボロー（エレクトリックピアノ）、クレイグ・マクミューレン、ジョン・ロウィン（ギター）が鍵盤楽器やギターを担当しています。さらに、マユト・コリアやキング・エリソンといったパーカッショニストが参加し、楽曲に彩りと躍動感を与えています。ジェイムズ・カーターの口笛も、一部の楽曲で印象的な役割を果たしています。

まとめ

『プレイシズ・アンド・スペイシズ』は、ドナルド・バードがマイゼル兄弟との共同作業を通じて、ジャズの伝統にファンク、ソウル、R&Bといった要素を巧みに融合させた、1970年代のクロスオーバー・ジャズを代表する傑作の一つです。商業的な成功と批評的な評価の両方を獲得した本作は、当時の音楽シーンの多様性と進化を示す重要な記録であり、今日でも多くの音楽ファンに愛され続けています。

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