プレーム・ティンスーラーノン

プレーム・ティンスーラーノン（Prem Tinsulanonda）は、1920年8月26日にタイ南部で生まれ、2019年5月26日に98歳で亡くなったタイの軍人、政治家です。彼はタイの歴史において重要な役割を果たし、首相、枢密院議長を歴任しました。

軍人としてのキャリア

プレームは1941年に王立陸軍士官学校（現在のチュラチョームクラオ陸軍士官学校）に入学し、軍人としてのキャリアをスタートさせました。彼は第一騎兵師団長などを務め、1977年から1978年には内務副大臣、1978年から1980年にはタイ陸軍司令官、1979年から1986年には国防大臣を歴任しました。また、1968年から1971年まで上院議員、1972年から1973年まで下院議員を務めるなど、政治の世界にも足跡を残しました。

首相としての時代

1980年から1988年までの8年以上にわたり、プレームは首相としてタイを率いました。この間、彼は数々の暗殺未遂事件や2度のクーデターを乗り越え、そのリーダーシップを発揮しました。経済面では、外国企業への投資規制を緩和し、タイの経済成長を促進しました。また、民政移管を実現するなど、タイの民主化にも大きく貢献しました。さらに、タイ共産党の活動家に対して恩赦を呼びかけ、穏健な政策で共産党勢力の弱体化を図りました。

彼の首相時代は、非民選議員が首相を務め、内閣には官僚、政党関係者、民間人が起用されたことから、「半分の民主主義」と評されることもありました。1988年に首相を退任した後、彼は枢密顧問官に任命され、「ラタブルット」（国家功労者）の称号を授与されました。

政界での影響力

1998年からは枢密院議長として、プレームはタイの政治に大きな影響力を持ち続けました。彼は清廉な人柄と王室への忠誠心から、プミポン国王（ラーマ9世）からの信頼が厚く、軍や政財界においても絶大な影響力を持つとされていました。彼の誕生日には、陸海空の各司令官や国軍最高司令官、警察幹部が祝いに訪れるほどでした。

しかし、プレームはスチンダー・クラープラユーンやタクシン・シナワットといった権力志向の強い政治家を王室への脅威とみなし、排除しようとしました。特にタクシンからは「2006年クーデターの黒幕」、「憲法を超えたカリスマ」と批判されるなど、その影響力の強さが伺えます。

プレームの側近には、チャムロン・シームアン元バンコク都知事が秘書として、スラユット・チュラーノン元首相が陸軍時代の副官として仕えていました。2016年10月13日にプミポン国王が崩御した際には、憲法の規定により、ワチラーロンコーン皇太子（後のラーマ10世）が即位するまでの間、枢密院議長として暫定摂政を務めました。その後、ワチラーロンコーン皇太子が即位し、プレームは暫定摂政を退任しました。

2019年5月4日のラーマ10世の戴冠式にも参列しましたが、その22日後、バンコク市内の病院で98年の生涯を閉じました。

慈善活動

プレームは自身のラタブルット財団を通じて、多くの慈善活動にも携わっていました。2001年8月には、タイのチェンマイ県に「プレーム・ティンスーラーノン・インターナショナルスクール」を共同設立しました。この学校は広大な90エーカーのキャンパスを有し、寮も完備され、多国籍の学生が学んでいます。

栄典

プレームは、その功績により、以下の勲章を受章しています。

チュラチョームクラーオ勲章
ラーマーティボーディー勲章

プレーム・ティンスーラーノンは、タイの政治史において、そのリーダーシップと影響力で重要な役割を果たした人物として、今後も語り継がれていくでしょう。

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