プログレスM-12M

ロシアの国際宇宙ステーション（ISS）向け無人補給船「プログレスM-12M」（ロシア語名: Прогресс М-12М、NASA名称: プログレス44）は、2011年8月24日に打上げられました。しかし、残念ながらロケットの不具合により軌道到達に失敗し、機体は失われました。この出来事は、1978年のプログレス1号打上げ開始以来、30年以上にわたるプログレス補給船の歴史において、初めての打上げ失敗となりました。

当初の計画では、プログレスM-12MはISSへ合計約2.67トンもの重要な物資を送り届ける予定でした。これには、クルーの生存に必要な酸素や食料、そしてISSの軌道維持などに使う燃料が含まれていました。また、ISSの軌道高度を保つためのリブースト（軌道再上昇）を3回実施することも計画されていました。打上げから2日後の8月26日にはISSのロシア区画にあるズヴェズダモジュールの後部ポートに自動ドッキングし、約半年間ISSに結合したまま滞在し、翌年2012年3月5日に軌道離脱する予定でした。

搭載されていた貨物は総計2,670kgに達しました。この中には、水420kg、酸素50kg、そしてISSの軌道制御やプログレス自身の運用に必要な燃料996kgが含まれていました。燃料以外の貨物、いわゆる「ドライカーゴ」は1,204kg積まれており、その内容は多岐にわたります。ISSの維持に必要なスペアパーツ、クルーの生活用品、安全装備、食料、個人的な品々、衛生用品のほか、ISSの様々なモジュールで使用される機器類や、軌道上で行われる科学実験のための機器や試料も搭載されていました。これらの物資は、ISSの長期滞在クルーの生活と活動を支える上で不可欠なものでした。

プログレスM-12Mは、2011年8月24日13時0分11秒（協定世界時）に、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地にあるガガーリン発射台から、ソユーズUロケットに搭載されて宇宙を目指しました。しかし、離昇からおよそ325秒後、ロケットの第3段エンジンであるRD-0110に異常が発生し、搭載コンピューターはエンジンの噴射を緊急停止させました。これにより、第3段は目標とする軌道速度に達することができませんでした。結果として、機体はそのままロシア領内のアルタイ共和国上空で大気圏に再突入し、燃え尽きて失われました。本来であれば、第3段エンジンは離昇から287秒後から525秒後まで、合計238秒間にわたり燃焼を続ける予定でした。

事故後、ロシア連邦宇宙局は直ちに事故調査委員会を設置し、原因究明にあたりました。テレメトリデータの詳細な解析の結果、第3段エンジンRD-0110のガスジェネレータに燃料を供給する配管内部に異物が混入していたことが判明しました。この異物によって燃料の流量が減少し、エンジンの緊急自動停止を引き起こしたと結論づけられました。事故調査委員会は、この不具合がロケット製造過程における問題であったと特定しました。

この失敗は経済的損失をもたらし、失われた機体には30億ルーブル（当時のレートで約1億300万米ドルに相当）の保険が付保されていました。また、この事故を受けて、直後に予定されていた他のロケット打上げも延期されました。特に懸念されたのは、ISSへの有人輸送を担うソユーズ宇宙船の打上げに使用されるソユーズFGロケットの第3段も、今回失敗したソユーズUと同じRD-0110エンジンを使用していたことです。ロシアが早期にソユーズロケットの打上げを再開できなければ、ISSに滞在中の長期滞在クルー全員を一時的に地上へ帰還させ、ISSを無人の状態で運用せざるを得なくなる可能性も検討されました。幸いなことに、原因特定と対策が進み、10月30日には後続のプログレスM-13M補給船の打上げに成功、続いてソユーズTMA-22有人宇宙船も約1ヶ月半の遅れをもって11月14日に無事打上げられ、最悪の事態は回避されました。この時期、ロシアや中国など、他の国のロケット打上げでも短期間に失敗が相次いでいたことも特筆されます。

事故調査委員会は、製造段階での問題を特定した上で、今後の再発防止策を提言しました。これには、ロケットエンジンの製造工程における各段階での追加的な検査の実施や、最終組み立て段階においてビデオモニタを用いて詳細な判定を行うことなどが含まれていました。

プログレスM-12Mの失敗は、長年にわたり高い信頼性を示してきたロシアの宇宙輸送システムにとって異例の出来事であり、宇宙開発におけるリスクや品質管理の重要性を改めて浮き彫りにしました。しかし、ロシアは迅速な調査と対策によって打上げ活動を再開し、ISSへの安定的な補給・有人輸送体制を維持することに成功しました。

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