プログレスMS-14

プログレスMS-14は、ロシア連邦宇宙局（ロスコスモス）が開発・運用する無人宇宙補給船です。正式名称は「プログレスMS-14」ですが、NASAでは「プログレス75P」とも呼称されました。その主な任務は、国際宇宙ステーション（ISS）へ必要な物資を輸送することにあります。このミッションは、ロシアの信頼性の高い無人補給船シリーズであるプログレス宇宙機の歴史において、通算166回目の飛行にあたるものでした。

プログレスMSシリーズの特徴

プログレスMSシリーズは、先行するプログレスM型を基盤としつつ、特に航法システムに大幅な改良が加えられた最新型の無人輸送機です。この強化型バージョンの最初の機体は、2015年12月21日に宇宙へと旅立ちました。プログレスMS型では、以下のような多岐にわたる強化が施されています。

小型衛星放出機能: 小型人工衛星を軌道上に展開するための新たな外部コンパートメントが追加されました。この区画には、それぞれ最大4個の小型衛星を搭載できる発射コンテナーを収容可能です（この機能はプログレスMS-03から搭載）。
冗長性の向上: ドッキング機構や船内の密閉システムに使われる電気モーターに予備系統が設けられ、システム全体の信頼性が高められています。
微小隕石防護強化: 貨物室の保護パネルが強化され、宇宙空間に存在する微小なデブリ（宇宙ごみ）や流星物質からの防護性能が高められています。
中継衛星通信: ロシアのルーチ中継衛星システムとの連携機能が搭載されたことで、機体が地上の管制局の直接的な通信圏外にある場合でも、テレメトリーデータの送信やコマンドによる制御が可能になりました。
自律航法: GNSS（全球測位衛星システム）を利用した自律航法能力を備え、地上局からの支援なしに自身の位置や軌道要素を正確に決定できるようになりました。
ISSとの直接データ交換: 宇宙ステーションと直接無線でデータをやり取りする機能により、ドッキングなどの際にリアルタイムでの相対的な位置や速度を精密に把握できるようになりました。
デジタル無線システム: ドッキング操作時に機体の状況を確認するためのテレビ映像伝送システムが、新しいデジタル無線システムに更新され、より鮮明で安定した映像が得られるようになりました。
システム更新: ウクライナ製の旧式無線システムとその関連機器が、ロシア製の新しい統合コマンド・テレメトリー・システム（UCTS）に置き換えられ、自動ドッキングシステムであるクルスAもデジタル式のクルスNAシステムに変更されました。

プログレスMS-14の特別な側面

このプログレスMS-14の打ち上げは、第二次世界大戦における対ナチス・ドイツ戦勝75周年という記念すべき年に実施されました。この歴史的な出来事を称えるため、打ち上げに使用されたソユーズロケットには、ロシアの軍事的な栄誉を象徴する聖ゲオルギーのリボンと、第二次世界大戦に関連する勲章のデザインが施されました。また、当時世界的に蔓延していたCOVID-19（新型コロナウイルス感染症）がISS内に持ち込まれる事態を防ぐため、プログレスMS-14の機体および搭載される貨物には、打ち上げ前に入念な追加消毒措置が講じられました。この消毒作業は非常に徹底しており、単にISSへ運ばれる物資の表面を拭くだけでなく、機体の内部表面や搭載機器そのものも消毒されました。燃料充填や機器の最終的な準備が完了した後にも、ウイルス侵入防止のための特別な消毒プロセスが繰り返し行われたのです。

打ち上げと迅速ドッキング

プログレスMS-14を宇宙へ運んだのは、ソユーズ2.1a型ロケットです。この打ち上げ機体は、前述の戦勝75周年を記念して「戦勝ロケット」とも呼ばれました。特に、ペイロード・フェアリング（衛星や宇宙船を保護する先端部分）には、欧州における第二次世界大戦終結間際の歴史的な出来事である、ドイツのエルベ川での米ソ両軍による出会いから75年を迎えたことを記念する数字「75」が大きく描かれていました。この「75」という数字には、もう一つ重要な意味が込められていました。それは、2000年に国際宇宙ステーションが本格的に運用を開始して以来、プログレス補給船がISSに対して行った補給ミッションの回数が、このプログレスMS-14でちょうど75回目にあたるという事実です。このように、記念の数字には二重の意義が付与されていました。

打ち上げは、カザフスタンにあるロシアのバイコヌール宇宙基地31/6番射点から、2020年4月25日協定世界時（UTC）01時51分41秒に実施されました。このミッションでは、ISSへの短時間での到達を目指す「迅速軌道」が採用されました。打ち上げは順調に進み、プログレスMS-14はわずか約3時間20分後の同日UTC 05時11分56秒には、目的地である国際宇宙ステーションの「ズヴェズダ」サービスモジュールの後方ポートへの自動ドッキングに成功しました。

輸送貨物と滞在期間

プログレスMS-14がISSへ届けた貨物の総重量は、2528kgに及びました。この中には、宇宙飛行士が船内で使用する様々な物資や実験機器など、与圧された空間に積まれた貨物が1358kg含まれています。その他に、ISSの姿勢制御などに使用される燃料700kg、呼吸用の酸素50kg、そして生活用水として利用される水420kgといった、ISSの運用に不可欠な流体貨物も輸送されました。

ISSへの物資輸送という主任務を終えた後、プログレスMS-14は役目を終えた機器やステーション内で発生した不要な廃棄物を搭載する「ごみ箱」としての役割を果たしました。そして、約1年間にわたるISSへの接続期間を終え、2021年4月27日にISSからドッキングを解除しました。

ミッションの完了

ISSを離れたプログレスMS-14は、制御された軌道修正を行い、2021年4月29日UTC 00時42分に地球の大気圏へ再突入しました。機体の大部分は再突入時の高熱によって燃え尽き、燃え残った破片は人の居住地から遠く離れた南太平洋上の安全な海域に落下するよう精密に誘導され、そのミッションを完了しました。

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