プログレスMS-15

プログレスMS-15（ロシア語: Прогресс МC-15）は、ロシア連邦宇宙局ロスコスモスが国際宇宙ステーション（ISS）へ補給物資を運ぶために開発・運用する無人の輸送宇宙機です。国際的にはNASAによってプログレス76Pとも呼ばれ、ロシア国内での製造番号は444とされています。これは、プログレス宇宙機シリーズの歴史において通算167機目の飛行にあたるものです。

本機は、従来のプログレスM型宇宙船をベースに、特に誘導・航法システムなどのアビオニクスを大幅に強化した後継シリーズである「プログレスMS」型の一つです。プログレスMSシリーズは2015年12月21日に初打ち上げが実施されて以来、ISSへの主要な補給手段として利用されています。この改良型には、以下のような多岐にわたる強化が施されています。

人工衛星放出能力: 新たに外部コンパートメントが設けられ、それぞれ最大4機の小型人工衛星を搭載したコンテナーを展開することが可能となりました。この機能はプログレスMS-03で初めて実装されました。
信頼性の向上: ドッキングシステムや貨物区画の密閉機構に使用される電気モーターに予備システムが追加され、主要コンポーネントの故障に対する耐性（冗長性）が高まっています。
耐デブリ性能: 貨物コンパートメントには保護パネルが追加され、軌道上を漂う微小隕石やスペースデブリとの衝突による損傷リスクが軽減されています。
通信可能範囲の拡大: ロシアのルーチ中継衛星システムとの連携により、地上局からの直接通信が困難な軌道上でも、機体の状態を示すテレメトリーデータの送信や、地上からの遠隔制御コマンドの受信が可能となりました。
自律的な軌道決定: GNSS（全球測位衛星システム）を活用した自律航法機能が搭載され、地上局による軌道決定の支援なしに、自身の正確な状況ベクトルおよび軌道パラメーターを把握できるようになりました。
ISSとのリアルタイム航法: ISSとの間で無線による直接データ交換が可能となり、ドッキング接近時における相対的な位置や速度の情報をリアルタイムで高精度に把握できます。
高性能デジタルビデオシステム: ドッキング操作を監視するためのTVカメラ映像伝送に、新しいデジタル無線システムが採用され、よりクリアで安定した映像が地上管制やISS搭乗員に提供されます。
アビオニクスの更新: ウクライナ製のChezara Kvant-V無線システムおよびアンテナ関連機器は、ロシア製の統合コマンド・テレメトリー・システム（UCTS）に置き換えられました。また、ドッキング誘導システムもアナログ式のクルスAからデジタル式のクルスNAに刷新されています。

ミッション概要

プログレスMS-15の打ち上げには、ロシアの標準的なキャリアロケットであるソユーズ2.1aが使用されました。打ち上げは2020年7月23日、カザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地の31番射点から、協定世界時（UTC）14時26分21秒に成功裏に行われました。ロケットから分離された後、プログレスMS-15はISSへのランデブー軌道に乗りました。

打ち上げからわずか約3時間20分後の同日UTC 17時45分00秒には、ISSのロシア区画にあるピアース・モジュールの地球側（天底）ポートへ自動操縦によるドッキングを完了しました。この超短時間でのドッキングは、物資を迅速に届けるために近年多用されている方式です。プログレスMS-15は、その後2021年2月まで約半年間にわたりISSに結合した状態を維持しました。

輸送された貨物

プログレスMS-15宇宙機は、合計で2540kgの様々な種類の貨物をISSへ届けました。その内容は以下の通りです。

与圧貨物: 1430 kg（ISS船内で保管・使用される食料、衣類、実験装置、予備部品など）
燃料: 620 kg（ISSの姿勢制御や軌道維持に使用される推進剤）
酸素: 46 kg（ISS内の呼吸用空気として供給されるガス）
水: 420 kg（宇宙飛行士が使用する飲料水や生活用水）

これらの貨物は、ISSに滞在する宇宙飛行士たちの生命維持と科学研究活動を継続するために不可欠なものでした。

ミッションの終了

プログレスMS-15は、2021年2月9日までISSにドッキングした状態で運用されました。ミッションの最終段階として、ISS内で発生した不要となった物品やゴミなどがプログレス補給船の貨物室に積み込まれました。同日、プログレスMS-15はピアース・モジュールから正常に分離。その後、安全確保のため、無人である南太平洋上の広大な海域へ目標を定め、大気圏へ再突入しました。機体はその際に発生する高熱と圧力によって分解・燃え尽きました。

補足として、プログレスMS-15がドッキングしていたロシアのピアース・モジュール（ドッキング室）は、当初の計画ではこのプログレスのミッション完了と同時にISSから分離・廃棄される予定でした。しかし、後継の大型研究モジュール「ナウカ」の打ち上げが遅延したことに伴い、ピアース・モジュールはその後も引き続きISSに留め置かれることとなりました。

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