プログレッシブ・ハウス

プログレッシブ・ハウス：進化するハウスミュージックの深淵

プログレッシブ・ハウスは、1990年代初頭にイギリスで生まれたハウスミュージックの一ジャンルです。既存のハウスミュージックの枠を超え、実験的なサウンドと複雑な構成を特徴としています。その起源は、1970年代にロック音楽で用いられた「プログレッシブ」という言葉に遡ります。当初は、従来のスタイルとは異なるアプローチを試みるロックバンドを指していましたが、次第にハウスミュージックの世界でも、実験的で革新的なサウンドを表現する際に用いられるようになりました。

特に、1980年代にはデトロイトでイタロ・ディスコを指す言葉として使用されており、シンフォニックなフィラデルフィア・ソウルとは異なる、ジョルジオ・モロダーのユーロディスコの影響を受けたサウンドを表現するために用いられました。この時代のデトロイトでは、アレクサンダー・ロボトニック、Klein + M.B.O.、カプリコーンといったアーティストが、ディスコ音楽の後継としてテクノの隆盛を先駆ける役割を果たしました。

イギリスでは、1980年代後半、音楽ジャーナリストのサイモン・レイノルズが808ステイト、ジ・オーブ、ティム・シムノン（Bomb the Bass）、シェイメンといったアーティストの作品を記述する際に「プログレッシブ・ダンス」という表現を用いました。そして、1990年から1992年にかけて、「プログレッシブ」という言葉はハウスミュージックのサブジャンルとして「プログレッシブ・ハウス」を指す言葉として定着していきました。

プログレッシブ・ハウスの特徴

プログレッシブ・ハウスは、ダブやディープ・ハウスの影響を受けた、ゆったりとしたテンポと重厚なベースラインが特徴です。楽曲は長く、聖歌のようなコーラスや、ユーロトランスやヴォーカル・トランスに見られるようなクレッシェンドやドラムロールは比較的少ない傾向にあります。音の層を規則的に増減させることで、楽曲に深みと変化を与えています。フレーズは一般的に2小節の長さで構成され、新しいメロディーやリズムが導入されることで、聴く者を飽きさせません。

メロディーラインは、しばしば数小節にわたる長いビルドアップを特徴とし、その後ブレイクダウンを経てクライマックスへと至ります。プログレッシブ・ロックと同様に、楽曲全体を通して複雑さが増していく構成や、楽章の連続、反復といった要素も見られます。しかし、4つ打ちのリズムは常に維持され、ハウスミュージックの根幹をなす要素として存在感を保っています。

ハウスミュージックの中でも特に実験的な側面が強い作品は、「プログレッシブ」として分類される傾向があります。一方で、このジャンルには、エリート主義的で過剰生産されているという批判も存在します。

プログレッシブ・ハウスの歴史

プログレッシブ・ハウスは、ハウスミュージックが登場した当初から存在していました。そのルーツは、1990年代初頭のイギリス、ヨーロッパ、オーストラリア、北アメリカのレイブやクラブシーンにまで遡ることができます。アメリカ、イギリス、イタリア、ドイツのハウスミュージック、そしてテクノが融合し、新しいサウンドを生み出しました。このジャンルは、伝統的なアメリカンハウスと新たなレイブシーンで生まれたハウスミュージックを区別するために用いられました。シカゴのアシッドハウスとは異なるサウンドであり、アメリカ国外で発展したハウスミュージックの新しい潮流を表現する言葉として、1990年から1992年頃にレイブシーンから生まれました。初期にはトランスと混同されることもありました。

イングランドのクラブシーンで、よりハードコアでダンスに焦点を当てたスタイルが主流になると、プログレッシブ・ハウスはそれとは対照的な存在として位置づけられました。しかし、1990年代半ばまでには、プログレッシブ・ハウスはハウスミュージックの主流派としての地位を確立しました。

著名なアーティスト、レーベル、DJ

プログレッシブ・ハウスの隆盛に貢献したアーティストには、レフトフィールド、ドラム・クラブ、スプーキー、フェイスレスなどがいます。初期の代表的なレーベルには、ハード・ハンド、カウボーイ、オム・レコード、ゲリラ・レコードなどが挙げられます。人気DJには、ガット・デコール、Sash!、サッシャ、ジョン・ディグウィード、ポール・オーケンフォールドなどがいます。

その他にも、エルナン・カッタネオ、デイヴ・シーマン、ニック・ウォーレン、ジェイソン・ジョリンズ、ダニー・ハウエルズ、アンソニー・パッパ、ディンカなどがこのジャンルに貢献しました。2000年代後半には、デッドマウス、Kaskade、ジョン・ダールベック、アヴィーチー、モグワイ、スウェディッシュハウスマフィアなどが、アメリカ人プロデューサーによるプログレッシブ・ハウスの再興を象徴する存在となりました。また、ビッグルームハウスは、プログレッシブ・ハウスのメロディアスな要素とエレクトロハウスのダイナミックさを融合したジャンルとして、大型音楽フェスティバルなどで人気を集めています。Djtunesは、2013年頃にトム・ノーヴィ、ダニエル・ポートマン、デヴィッド・ゲッタ、クン・グローネフェルト、R.I.O.を当時最も成功したプログレッシブ・ハウスアーティストとして挙げています。

まとめ

プログレッシブ・ハウスは、ハウスミュージックの進化において重要な役割を果たしたジャンルです。実験的なサウンドと複雑な構成、そして数々のアーティストやレーベルの貢献によって、音楽シーンに多大な影響を与えました。その歴史と特徴、そして主要なアーティストたちを知ることで、ハウスミュージックの奥深さをより深く理解することができるでしょう。

もう一度検索