プロトン (ロケット)

プロトンロケット：旧ソ連が生んだ強力な打ち上げロケット

プロトン（Proton）ロケットは、旧ソ連時代に開発された液体燃料ロケットです。当初は重ICBM（大陸間弾道ミサイル）として設計されましたが、その強力な推進力を活かし、宇宙開発において重要な役割を果たしてきました。別名としてUR-500、D-1、SL-12、SL-13などがあります。

概要

プロトンロケットは、チェロメイ設計局（OKB-52）が開発を担当しました。推進剤には、四酸化二窒素と非対称ジメチルヒドラジンを使用しています。この組み合わせは、ハイパーゴリック推進剤と呼ばれ、接触するだけで燃焼するため、点火装置が不要で、常温で保管できる利点があります。ソユーズL1計画（有人月接近飛行計画）では、無人テスト機ゾンドの打ち上げにも利用されました。

有人月探査計画が中止された後は、その大推力を活かして、惑星探査機やサリュート、ミール、国際宇宙ステーション（ISS）などの打ち上げに貢献しました。現在も、静止衛星の商業打ち上げなどに利用されています。

すべてのプロトンロケットは、モスクワにあるクルニチェフ国家研究生産宇宙センターで製造されています。バイコヌール宇宙基地で組み立てられ、横倒しのまま鉄道で射点まで運ばれ、垂直に立てられてから発射されます。射点には、バイコヌール宇宙基地の200番射点が使用されています。

2013年3月の報道では、アンガラロケットが実用化された2020年以降に、有毒な推進剤を使用するプロトンロケットを退役させる方針が示されました。

プロトンロケットの商業打ち上げは、インターナショナル・ローンチ・サービス（ILS）社が行っています。これは、ロシアのクルニチェフ社とエネルギア社、そしてアメリカのロッキード・マーティン社の合弁会社で、プロトンロケットを使用した世界的な人工衛星打ち上げの権利を保有しています。

特徴

プロトンロケットには、3段式と4段式のタイプがあります。

1段目:
一見すると、コアステージの周囲を補助ロケットが囲んでいるように見えますが、実際には、中心部はエンジンを持たない単なる酸化剤タンクで、その周囲をRD-253（後にRD-275に移行）エンジンを搭載した6本の燃料タンクが囲んでいます。

初期型 (8K82/UR-500):
1965年から1966年にかけて打ち上げられた初期型は、1段目にRD-253エンジン6基、2段目にRD-0210エンジン4基を搭載した2段式でした。

プロトンK (SL-13):
プロトンKからは、3段目にRD-0212エンジン1基を持つ構成になりました。3段式のプロトンKは、主に低軌道への人工衛星打ち上げに使用されました。

プロトンK・ブロックD (SL-12):
ルナ計画やゾンド計画、静止軌道またはそれ以上の軌道への投入計画には、N1ロケットの5段目として開発されたブロックDを加えた4段式が使用されました（4段目には、ブロックDまたはブロックDMが使われました）。4段式のプロトンKは、静止トランスファ軌道に約4.8トンの打ち上げ能力を持っていました。

プロトンM・ブリーズM:
2001年4月にデビューしたプロトンMは、プロトンKの改良型です。フェアリングの大型化、1段エンジン推力の増強、飛行制御システムのデジタル化、そして4段目をブリーズMに変更することで、静止トランスファ軌道への打ち上げ能力を約5.5トンにまで向上させました。また、2007年には機体の軽量化などによって打ち上げ能力を強化した、増強型プロトンMも登場しました。

プロトン K

プロトンKは、非対称ジメチルヒドラジンと四酸化二窒素を推進剤として使用します。この組み合わせは、接触するだけで燃焼するハイパーゴリック推進剤であるため、点火装置が不要で、常温で保管が可能です。これにより、低温設備が不要となり、長期間発射台に配備できます。ハイパーゴリック推進剤は腐食性があり有毒であるため、取り扱いには高度な訓練を受けた作業者による慎重な作業が必要です。

任務に応じて、さまざまな形式の4段目が追加されました。ブロックDは、惑星探査ミッションに使用されました。ブロックDは、飛行制御を探査機に依存しており、誘導装置を持っていません。3種類のブロックDM派生型（DM、DM2、DM-2M）は、高軌道への打ち上げに使用されました。ブロックD/DMの燃料は、エンジンの周囲のドーナツ形のタンクに貯蔵されていました。

45年間使用されたプロトンKは、2012年3月30日に310機目（1回の打ち上げ前失敗を含めると311機目）の最後の打ち上げが行われました。

プロトン M

プロトンMは、プロトンロケットの最新バージョンです。静止軌道に3～3.2トンのペイロードを投入するか、静止トランスファー軌道に5.5トンのペイロードを投入する能力を持っています。低軌道には最大22トンのペイロードを、国際宇宙ステーションの周回軌道（傾斜角51.6度）に投入できます。

プロトンMの改良点には、1段目の構造重量の削減、推力の増強、推進剤の完全利用などがあります。上段には、ブロックD/DMの代わりに、貯蔵可能な推進剤を使用するブリーズ-Mを使用することで、複数の燃料の供給や液体酸素の蒸発の問題を解消しました。一部のミッションでは、プロトン-MもブロックDMを上段に使用します。また、外国（主にウクライナ）製の部品の使用を削減することにも注力しました。

2007年7月7日には、ILSによってディレクTV-10衛星を搭載した最初のプロトンM/ブリーズMエンハンストが打ち上げられました。この打ち上げは、326回目のプロトン打ち上げ、16回目のプロトンM/ブリーズM打ち上げ、そして41回目のILSによるプロトン打ち上げでした。プロトンMエンハンストの特徴は、高効率のエンジンを1段目に搭載し、航空電子機器を更新し、タンクを増量し、ブリーズM上段により強力なバーニアエンジンを備えたことです。

2013年7月2日には、3機のGLONASS衛星を搭載して打ち上げられましたが、発射直後に問題が発生し、制御を失ったプロトンMは蛇行した後に横方向に飛行して空中分解し、発射台から2.5kmの距離に墜落しました。発射17秒後にエンジンの緊急停止コマンドが送信されましたが、射場保護のために42秒後まで受け付けられない仕様になっており、機能しませんでした。

2014年5月16日には、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられたプロトンロケットが、打ち上げ545秒後に制御用エンジンが故障し、太平洋上で炎上して墜落しました。

プロトン (ロケット)