ヘパトシスティス

ヘパトシスティスとは

ヘパトシスティスは、アピコンプレックス門に属する寄生性の原生生物です。この生物は、ヌカカを媒介して哺乳類の体内に侵入し、肝細胞や赤血球に寄生します。分類学的にはヘパトシスティス属（Hepatocystis）に約25種が知られており、その多様な生態と形態が注目されています。

形態

ヘパトシスティスの特徴的な形態の一つは、肝臓に形成されるメロシストと呼ばれる小結節です。これは直径1mmから数mm程度で、肉眼でも肝臓の表面に観察することができます。顕微鏡で観察すると、メロシストの周囲には好酸球やマクロファージが集まり、局所的に線維化や出血が見られます。成熟したメロシストの中央部には、エオジン好染性の液胞が大きく発達し、周縁部には多数の娘虫体（メロゾイト）が存在します。

赤血球内では、マラリア原虫とよく似たリング体を形成します。しかし、マラリア原虫とは異なり、無性生殖を行わず、常に生殖母体を形成します。生殖母体は赤血球よりもやや大きく、雌性生殖母体の方がやや大きいものの、細胞核は雄性生殖母体の方が大きいという特徴があります。

生態

ヘパトシスティスの中間宿主は哺乳類であり、特に狭鼻猿（旧世界ザル）やコウモリに多く見られます。その他、カバやリスにも感染が確認されています。終宿主はヌカカの中でもCulicoides属の種です。感染から血液中に寄生体が確認されるまでの潜伏期間は約2ヶ月程度で、通常、1ヶ月程度で自然に消失します。感染した動物に発熱は見られないことが多いですが、貧血を引き起こす場合があります。

生活環

ヘパトシスティスの生活環は、ヌカカが哺乳動物を吸血する際に始まります。ヌカカの唾液と共にスポロゾイトが哺乳動物の体内へ侵入し、まず肝細胞に感染します。肝細胞内で約1〜2ヶ月かけてメロシストを形成しますが、脾臓や肺で発育する場合もあります。メロシストから放出されたメロゾイトは、他の肝細胞に再感染したり、赤血球に感染してリング体を形成します。リング体は栄養体を経て、雌雄の生殖母体へと成長します。これらの生殖母体がヌカカに吸血されることで、配偶子となり有性生殖を行います。オーシストは主にヌカカの頭部の血体腔に形成されます。

分類

ヘパトシスティスは、アピコンプレックス門の無コノイド綱住血胞子虫目に分類されます。研究者によってはプラスモジウム科またはヘモプロテウス科に所属させることがありますが、分子系統解析の結果から、ヘパトシスティスは哺乳類を宿主とするマラリア原虫の一部が特殊化したものと推定されています。したがって、ヘモプロテウス科に分類することは、生物の系統を正確に反映しない可能性があります。

ヘパトシスティス属の種と宿主の例

以下に、ヘパトシスティス属に属する種と、それぞれの宿主の例を挙げます。

H. bainae - カグラコウモリの一種 Hipposideros galeritus
H. bouillezi - モナモンキー Cercopithecus mona
H. brosseti - フランケオナシケンショウコウモリ Epomops franqueti
H. carpenteri - ウマヅラコウモリ Hypsignathus monstrosus
H. cercopitheci - ブラッザグエノン Cercopithecus neglectus、オオハナジログエノン Cercopithecus nictitans
H. epomorphori - ガンビアケンショウコウモリ Epomorphorus gambianus
H. garnhami - コバナフルーツコウモリ Cynopterus sphinx
H. hippopotami - カバ Hippopotamus amphibius
H. hipposideri - タイワンカグラコウモリ Hipposideros armiger terasensis
H. kochi - ミドリザル Cercopithecus aethiops、ブラックマンガベイ Cercocebus aterrimus、クロテナガザル Hylobates concolor
H. levinei - ハイガシラオオコウモリ Pteropus poliocephalus
H. muuli - インドシナシマリス Menetes berdmorei
H. perronnae - アンゴラフルーツコウモリ Lissonycteris angolensis、コクビワフルーツコウモリ Myonycteris torquata
H. pteropi - コバナフルーツコウモリの一種 Cynopterus bracyotis、ホースフィールドフルーツコウモリ Cynopterus horsfieldi、メガネオオコウモリ Pteropus conspicillatus、ハイガシラオオコウモリ Pteropus poliocephalus、オーストラリアオオコウモリ Pteropus scapulatus、オオコウモリの一種 Pteropus colinus, P. edwarsii, P. geddiei, P. gouldi
H. rhodiani - カグラコウモリの一種 Hipposideros galeritus
H. semnopitheci - カニクイザル Macaca irus、コノハザルの一種 Presbytis aygula
H. simiae - キイロヒヒ Papio ursinus
H. taiwanensis - タイワンザル Macaca cyclopis
H. vassali - タイワンリス Callosciurus flavimanus*



これらの種と宿主の例は、ヘパトシスティスの多様性と、その宿主特異性を示しています。今後の研究によって、さらに多くの種が発見され、その生態や分類が明らかになることが期待されます。

もう一度検索